ライブラリー

第 20 回

温故知新 ー助成研究者は今ー

「財団助成研究・・・その後」

第17回 平成20年度(2008 年度)若手国内共同研究助成

広島大学大学院 医歯薬保健学研究院
地域医療システム学 寄附講座准教授

松本 正俊

当時自治医科大学地域医療学センターで医師の偏在やその対策に関する研究を始めようとしていた私は、運よく平成20年度ファイザーヘルスリサーチ国内共同研究助成を受けることができました。まだ文部科研費も獲得したことの無かった若造に200万円という多額の研究資金を、しかも自由に使わせていただけたことは、研究者人生のスタートとして大変恵まれていたと思います。

この研究助成により、日、米、英の3か国の医師の地理的偏在の比較を行いました。その結果、日米ともに医師数は増加しているものの医師の地理的偏在度は変わっていないこと、ただし日本のほうがへき地への医師誘導がうまくいっている可能性があること、英国に比べ日本のほうがプライマリケア医の都市偏在が強いことなどを明らかにしました。また診療科偏在についても日米比較を行い、日本では開業率の低い科ほど医師数が少なく地理的偏在度が高くなる傾向が見られました。

ファイザーの助成によって始めた「日本の医師の偏在に関する研究」は助成期間終了後も私のライフワークとして継続しております。例えば、自治医科大学卒業生の地理的分布に関するコホート研究を行い、その結果の一部はWorld Health Organization(WHO)が出したへき地での医師確保に関する政策ガイドラインにエビデンスとして採用されております。

現在は厚生労働省、文部科学省、全国医学部長病院長会議の協力のもと、全国地域医療教育協議会のプロジェクトである「医学部地域枠出身医師の進路に関するコホート研究」の代表を務めさせていただいており、データを収集しているところです。地域枠入学者は全医学部入学者の15%を超えており、医師数および医師分布に関して行われた政策としては、1970年代の「一県一医大構想」に匹敵する規模のものです。本研究によりその効果が明らかになることが期待されています。

また最近は医師に限らず「医療資源全般の偏在」「医療へのアクセスの不平等」にテーマを広げ、CT、MRIなどの物的資源の分布、産科医療施設の集約化、透析患者の通院時間格差などについても分析を行い、論文としてまとめました。

今後もファイザーヘルスリサーチ国内共同研究助成でいただいたチャンスをより大きく膨らませ、日本の、そして世界の医療政策に貢献していきたいと思っております。

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