ライブラリー

第 19 回

温故知新 ー助成研究者は今ー

「財団助成研究・・・その後」

第17回 平成20年度(2008年度)国内共同研究

佐賀大学医学部 循環器内科 心不全治療学講座 准教授

琴岡 憲彦

このたび温故知新へ寄稿させていただくことになり、「遠隔モニタリングを核とした心不全診療チームの連携により、再入院率を低下させることができるか検証する」というテーマで平成20年度に国内共同研究助成を頂いた当時のことを回想しました。当時すでに高齢者の慢性心不全は数の上でも急性冠症候群を凌駕しており、画一的なクリニカルパスには納まらない多様性に起因する入院期間の長期化や、在宅管理の困難さのため退院後の再入院率が非常に高いことなどが、診療現場の悩みの種となっていました。これらは我が国特有の問題ではなく、米国では多職種の心不全診療チームが電話や家庭訪問などを行うことによって再入院率を低下させることができたという報告以降、様々な機器を用いたホームモニタリングによって再入院を抑制する方法が模索されていました。本研究助成において、我々は、遠隔モニタリング可能な体重計と血圧計を退院時に家庭に設置し、毎日監視することによって再入院を防ぐ試みを実施し、前年と比較した場合の再入院率を低下させることができました。しかしながらこの研究の最中に欧米から、遠隔モニタリングでは慢性心不全患者の予後の改善や再入院率の低下は得られないという、大規模多施設無作為化比較試験の結果が相次いで報告されました。これらの結果には非常に落胆しましたが、研究デザインや研究実施上の問題点も指摘されていました。そのような時期に幸運にも厚生労働省の助成を受けることができ、慢性心不全における遠隔モニタリングの効果を検証するための多施設無作為化比較試験(HOMES-HF研究)を実施することができました。この研究は昨年、およそ2年間にわたる追跡を無事に終了することができ、近く結果を公表できる予定となっています。これら一連の研究によって、遠隔モニタリングの価値は監視そのものにあるのではなく、診療チーム内のコミュニケーションを円滑化する効果が最も重要であると気づくことができました。

国内共同研究助成を頂いてから7年が経過し、高齢化の問題は当時よりもさらに深刻化しています。2025年や2035年に向けた具体的な数値目標も示され、医療や介護の再編は待ったなしの状況となっています。慢性心不全も例外ではなく、これから非常に多くの高齢心不全患者さんを在宅医療の現場が支えなければならなくなることは必至であり、そのための準備をする必要に迫られています。我々は現在、ICTを活用した遠隔モニタリングを用いて、在宅医療スタッフや家族も含めた心不全診療チームが円滑にコミュニケーションすることによって、ほとんどの慢性心不全を在宅で診ることができるようにするための支援チームを大学病院内に設置する準備を行っています。

すべてはファイザーヘルスリサーチ振興財団より研究助成を頂いたことから始まりました。ここに感謝を申し上げるとともに、研究の成果を高齢化社会の問題解決のために役立てる責任を改めて実感しているところです。末筆ながら、貴財団のますますのご発展を心より祈念いたします。

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