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リレー随想 - 第31回 -

ヘルスリサーチを想う

WHOヘルスプロモーション ~健康は創ることができる!~

順天堂大学 国際教養学部 特任教授

島内 憲夫

今日の私の道行きを確立したのは、1986年デンマークのコペンハーゲン大学医学部社会学研究所に客員研究員として留学中に、WHOヨーロッパ地域事務局のイローナ・キックブッシュ博士との運命の出逢いである。彼女は、初対面の私に「健康は、医師や薬によって創られているのではなく、人々が生活する場所で創られている」また、「ヘルスプロモーションの最大の敵は貧困であり、究極の目標は平和である」と語ってきた。健康社会学を専門とする私は、その言葉に深く共感をし、感銘を受けたことを今でもはっきりと覚えている。その後は、帰国後の1987年から、私が代表を務めていた健康社会学研究会をベースキャンプとして、出版活動や学会での発表、自由集会企画などを通じてヘルスプロモーションを日本に広めるために取り組んできた。そして2002年には、日本ヘルスプロモーション学会を代表として設立し、今日に至っている。学会の目的は、21世紀を生きる人びとの健康を創造するための科学的でかつ人間的な知識と技術を開発するとともに、健康に価値を置く人びとのハートを育て、健康で幸せな社会を構築する仕組みをつくることである。

その狙いは、我々が開発するヘルスプロモーション・プログラムへの参加を国民に働きかけ、これにより健康の推進を進める活動への個人・グループ・家族・地域そして政策決定者のエンパワメントを高め、個人のコントロールを超えた健康づくりへの各界、各層における運動を展開することにある。医師を中心とした保健医療分野の専門家が、病気や障がいの克服に関心があることは十分理解できる。しかし、病気や障がいの予防を超えて、健康を創ることへの関心を示して頂きたい。なぜなら、彼らが健康領域の中心的な役割を担っていることには変わりはないし、ヘルスプロモーションの成功の鍵は、医師の意識変革(パラダイム・シフト)にあるからである。

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