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リレー随想 - 第30回 -

ヘルスリサーチを想う

国境を越える多様化の中の医事法・生命倫理

早稲田大学大学院 法務研究科長/教授

甲斐 克則

医事法・生命倫理の調査・研究ないし国際学会出席等のため、これまで約20か国を訪問してきた。その旅路で感じたことは、医事法・生命倫理の領域の多くの問題が多様な文化・社会の中で国境を越えて共通のものになりつつあり、国際的対応を迫られているということである。人間社会である以上、医療や生命をめぐる諸問題が付きまとうことは当然と言えば当然のことではあるが、文化・社会が異なれば、問題設定や問題状況も異なるので、それぞれの国で対応すればそれで済みそうであるが、最近ではこうした対応では限界があることが認識されつつある。

例えば、生殖医療の分野についてみると、代理懐胎(代理出産)の問題は、生殖ツーリズムの問題を生み出し、日本からもインド等へ代理母を求めて多くの人が渡航した。これは、かつての臓器提供を求めて海外に活路を見いだしていたことと共通点もあるが、異なる点もある。共通点は、欲求充足のため、経済格差を利用して途上国に生命の源を求めて活路を見いだす点かもしれない。では、相違点は何であろうか。具体的な手段の相違はあれ、本質は同じかもしれない。医療ツーリズムは、技術面と医療の質を前面に出して海外から患者を招き入れようとするものである。これも、その延長の事柄かもしれない。最近では、自殺ツーリズムという言葉も、スイスの周辺国から聞かれる。これは、生命の源を求めるツーリズムとは異なり、自己の最期の迎え方を求めて自殺幇助に協力してくれる国に行くものである。

これらの現象を見るにつけ、国境を越える多様化の中の医事法・生命倫理をめぐるルール作りをどのように行うべきか、考えさせられる。国際的次元でのジレンマと苦悩は続く。

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