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リレー随想 - 第 21 回 -

ヘルスリサーチを想う

医療における費用対効果

東京大学名誉教授 外保連 名誉会長

出月 康夫

我が国の医療費は人口の高齢化や、新技術、新薬の導入などによって毎年1兆円以上増加している。どこかで歯止めをかけなければ、やがて国民皆保険制度は破綻せざるをえない。これまで国は医師数を減らし、やみくもに医療費を削減する乱暴な政策を続け、これが現在の地域医療の崩壊を招いたのであるが、医療資源には限りがあるので何らかの歯止めは必要である。新しい技術や新薬の社会保険への導入に当たっては、費用対効果を考慮すべき時が来ているように思われる。

最近、ドラッグラグが話題となっている。なかでも癌の新薬(分子標的薬)の保険への早期導入について患者、家族の希望が大変に強い。しかし、治療の費用対効果を考えると、これらの癌の新薬は大変に効率が悪い。これらの新薬は癌を治癒させるものではなく、せいぜい10人中、2人か3人の患者の生命予後を2,3カ月程度延長させるという統計学的な有意差があるというにすぎない。

税金による国民皆保険制度(NHS)を実施している英国ではNational Institute for Health and Clinical Excellence(NICE)が新薬の使用について段階的な推奨を行っており、カナダ、オーストラリア、韓国などでも費用対効果の検討がなされている。我が国でも第3者機関を作って新技術や新薬による治療の効率性を客観的に検討する時期が来ているのではなかろうか。

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