ライブラリー

リレー随想 - 第 15 回 -

ヘルスリサーチを想う

安全と安心

厚生労働省 東北厚生局長 前厚生労働省大臣官房
厚生科学課長(原稿執筆時は当財団選考委員)

藤井 充

最近、保健医療や食の分野では「安全・安心で質の高い医療の確保」、「安心・安全な職場づくり」など「安全」と「安心」をセットで使うことが多い。広辞苑によると、安全とは物事が損傷したり、危害を受けたりする恐れのないことであり、安心とは心配・不安がなく心が安らぐこととされている。別の言葉で言い換えると、安全とは客観的な事実をもとにしたものであり、安心とは主観的な心の持ちよう、気持ちの問題であるといえる。

厚生労働行政分野においては以前より一層、施策を企画立案するのにしっかりした根拠を求められるようになってきた。しかし科学的、客観的な事実をもとに立案した安全性に係る施策が、住民から安心につながるものになっていないと不満があがることがある。そのため、行政の政策決定過程に住民、当事者に関与してもらうことも多くなってきている。また、安全と安心のギャップを埋める手法としてリスクコミュニケーションが行政分野においても注目されている。

政策は立案することが目的ではなく、それを実施して健康の確保などの目的を達成することに意味がある。今後は、単に政策決定に必要な科学的知見、データの整理をするだけでなく、社会経済的側面も考慮して、政策を実施した場合の住民のコンプライアンス、満足度、如何にすれば効率的・効果的に施策が実施できるかなど政策のPDCAサイクルを総合的に検証する新しい政策科学研究が必要になってきている。

リレー随想一覧