ライブラリー

平成23年度

vol.64

平成23年度 国際共同研究

オランダ・ベルギー・ルクセンブルクの
安楽死法の比較的研究

盛永 審一郎

代表研究者
富山大学大学院医学薬学研究部(哲学)教授

盛永 審一郎

研究期間
2011年11月1日~2012年10月31日
共同研究者
早稲田大学大学院法務研究科 教授 甲斐 克則
Vrije Universiteit Brussel(ベルギー)Professor of Health Sciences
Luc Deliens
University of Luxembourg(ルクセンブルク)Stefan Braum Professor
Stefan Braum

※研究期間、共同研究者の所属・肩書は助成時のもの

背景と目的

死に逝く過程の質の良さを追求することは、疾病を治療し延命するという医療の伝統的な目標と並ぶ重要な目標である。終末期の意思決定は、終末期ケアの決定的な役割を担っている。イギリスのエコノミストの調査部門(2010.07.14)によると、日本の「死の質」は40カ国中総合で23位にランクされている。基礎的な終末期の健康管理の環境では日本は2 位であるにもかかわらず、終末期ケアの利用可能性は28位、コストは31位だったからだ。このように、日本は世界でもっとも高齢な社会の一つであるにも関わらず、「死の質」は低い。一方、安楽死法を持つ国は,それぞれ高位である。そこで、オランダ、ベルギー、ルクセンブルクの安楽死法の比較的研究を行うことを通じて、終末期の意思決定の倫理的許容性を理論的に、かつ実践的に研究し、日本の終末期医療のあり方に資する一つの研究とする。

研究内容
  1. オランダ・ベルギー・ルクセンブルクそれぞれの安楽死法の成立経緯・内容・運用をそれぞれの文献等を通して個別に研究する。
  2. 三国の法の内容・運用についての同異を比較検討する。
  3. 安楽死を許容できる条件とは何かを探索する。
  4. 自発的積極的安楽死(患者の要請に応じての医師による患者の生命終結)を許容すると反自発的安楽死も許容されるという「すべり坂論証」は成立するか。
  5. 安楽死と緩和医療( 特に終末期のセデーション)とは対立的か、それとも相補的か。
  6. 日本での安楽死法の可能性。
成果
  1. 安楽死も終末期の一つの選択肢であり、選択肢として患者に残しておくことが、逆に患者が現在ある治療に専念できるということ。
  2. 3国とも、安楽死は、治療を拒否する権利としての自己決定権に根ざしているが、オランダは、「弱い積極的権利」(医師は援助する義務はない)であるのに対し、ベルギー・ルクセンブルクはどちらかというと「積極的権利」であるということ(医師は行為へと義務づけられることになる)。
  3. 安楽死法成立の4条件として、「同意原則(自律)」・「信頼性」・「透明性」・「高福祉」の4条件を取り出した。
  4. 「すべり坂」はおこらなかった(弱い人間やマイノリティーが死へとかりたてられるという傾向はなかった)ということ。
  5. 緩和医療と安楽死は、対立するものではなく、相補的なものであるということ。
  6. 日本の現状での安楽死法導入は難しい。
考察

オランダの安楽死法を可能にしている制度として、「信頼性」を生み出す「ホーム・ドクター制」、「同意原則(自律)」を可能にする自律的文化風土、「透明性」を保証する「オランダ医師会SCEN」、および「コントロール委員会」の存在、そして「高福祉」を保証する保険制度がある。したがって、日本で終末期の選択肢の一つとして「安楽死法」だけを整備しても、日本の現状の文化・社会制度ではうまく運用されることはないだろう。さらに、現在のように尊厳死と安楽死とを質的に区別して法案を作成するやり方は、いずれ矛盾に突き当たり、挫折せざるを得ないだろう。患者の権利法の制定が先ではないか。

平成23年度 国内共同研究

薬物間相互作用から予測される
有害事象に関する薬剤疫学的研究

赤沢 学

代表研究者
明治薬科大学公衆衛生・疫学研究室 教授

赤沢 学

研究期間
2011年11月1日 ~ 2012年10月30日
共同研究者
東京大学大学院薬学系研究科医薬品評価科学 助教 草間 真紀子
NTT東日本関東病院 薬剤部長 折井 孝男

※研究期間、共同研究者の所属・肩書は助成時のもの

背景と目的

医薬品リスク管理計画では薬剤疫学的な手法を積極的に活用し、医薬品の有効性・安全性評価を行うことが求められている。それを受けて、診療報酬明細書(レセプト)や病院情報システム(電子カルテ)などの電子化された医療情報データベースを二次利用した薬剤疫学研究が実施されるようになってきている。しかしながらレセプト病名などの問題もあり、有効性や安全性の評価を行うためのアウトカム指標(副作用定義など)の妥当性に対する課題も多い。そこで本研究では、スタチン系高脂血症用剤とその代表的な副作用である横紋筋融解症を取り上げ、副作用の定義に関する妥当性評価や薬物間相互作用の恐れのある薬剤併用と副作用の関連性について定量的評価を行った。

研究内容

医療情報データベースとして①メディカルデータビジョン社(以下、MDV)の病名と検査値を含むデータベース、②くすりの適正使用協議会(以下、RAD-AR)の病名と医師による副作用評価を含むデータベースを使用した。対象薬剤はスタチン系高脂血症用剤で、使用有無並びに使用期間を基に曝露を定義した。薬物間相互作用の可能性がある薬剤に関しては、添付文書の情報を基にフィブラート、マクロライド、アゾール、アミオダロン、シクロスポリンなどを選択し、その併用有無、使用期間によって定義した。対象とした副作用は、発現頻度は低いが重篤な症状である横紋筋融解症とした。副作用の定義に関しては、病名、検査値の推移、医師の診断など複数の方法を比較し、副作用発現率並びに陽性的中率の推定値と95%信頼区間を計算した。

成果

MDVデータベースを用いた検討では対象患者18,036例を抽出して横紋筋融解症の発現率を求めた。病名からは27例、検査値異常(CK値が基準上限の10 倍)からは20例、両者の何れかからは43例が同定され、その発現率は1000人年あたり1.02人(95%信頼区間0.76-1.37)であった。一方、薬物間相互作用の恐れのある薬剤の併用時の発現率は1000人年あたり1.69人(95%信頼区間0.54-5.24)であった(発症者3例)。この結果はBMJ Open(Chang et al, 3(4). e002040, 2013)にて報告した。

RAD-ARデータベースを用いた検討では対象患者23,852例を抽出して横紋筋融解症の発現率を求めた。医師の診断では4例、CK値異常からは20 例、両者の何れかからは22 例が同定され、その発現率は1000人年あたり0.92人であった。薬物間相互作用の恐れのあるフィブラートを併用し、横紋筋融解症を発症した例は1例であった。この結果は臨床薬理(此村ら44(3):193-200, 2013)にて報告した。

考察

本研究では、レセプト情報等を利用した副作用評価として、次の2つの課題を明らかにした。1つめは副作用定義である。医師の診断や検査値異常から副作用と考えられる症例においてレセプト病名と一致しないものが多く認められた。安全性評価に使うためには複数のデータベースを組み合わせるなどレセプト病名の妥当性評価が不可欠である。2つめはデータ期間である。薬物間相互作用の恐れのある薬剤は、直近の添付文書では併用禁忌となっているものが多かった。これらの薬剤によって引き起こされる副作用を評価するためには、リスクが明らかになる前(添付文書に記載される前)のレセプト情報等を含めて解析する必要があり、長期間のデータ蓄積が重要と考えられた。

平成23年度 国内共同研究

健康診断受診の糖尿病合併症進展への影響

西澤 均

代表研究者
大阪大学大学院医学系研究科内分泌・代謝内科学 助教

西澤 均

研究期間
2011年11月1日~2012年10月31日
共同研究者
市立吹田市民病院 医長 火伏 俊之
関西労災病院 医長 林 功
市立豊中病院 医長 岡内 幸義
市立池田病院 医長 岡田 拓也
箕面市立病院 医長 正田 英雄

※研究期間、共同研究者の所属・肩書は助成時のもの

背景と目的

糖尿病患者の治療目標は、網膜症・腎症といった細小血管障害、虚血性心疾患をはじめとする大血管障害を予防することである。ただ、高血糖状態は無症状であることも多く、無症状のうちに血管合併症が進展し、不幸にも眼底出血、心筋梗塞、脳梗塞を合併して初めて糖尿病が発見されることも少なくない。特定健診・保健指導制度が始まり、無症状のうちに生活習慣病を発見し、介入できる環境は整ったが、現時点では健診受診率は50%に満たない自治体がほとんどであり、健診受診率向上が急務である。本研究では 1)市立病院に入院した2型糖尿病教育入院患者を対象にした横断的調査から、血管合併症進展の予防に健診受診が有用である可能性と加入医療保険の視点からの糖尿病入院患者の背景を明らかにする。2)また、肥満糖尿病の病態、治療法、合併症を横断的に調査し、2型糖尿病を肥満糖尿病とやせ型糖尿病に分類することの臨床的意義を明らかにすることを目的とする。

研究内容
  1. 【対象】平成21年11~22年1月 市立豊中病院 糖尿病センター、平成23年7~12月 市立池田病院 内分泌・代謝内科、 平成23年8月~24年3月 市立吹田市民病院 内科、に入院し、糖尿病教室を受講し同意を得られた75歳未満の2型糖尿病の124症例(59.0±10.0歳、男性76例、女性48例、平均HbA1c9.0±2.2%)、【方法】 ①健診受診歴と職業につき糖尿病教室にて質問表による集合調査を施行、 ②初回治療46 例を対象に健診受診歴と糖尿病合併症(網膜症、腎症)の関連をフィッシャーの直接確率法により解析、 ③全124例を対象に加入している医療保険の種類を調査。
  2. 【対象】平成22年大阪大学医学部付属病院 、市立池田病院 および吹田市民病院 に入院した40歳~64歳の日本人2型糖尿病患者のうち、腹囲を測定しえた88症例(男性51例、女性37例)。
    【方法】腹囲が男性85cm女性90cm 以上を腹部肥満あり、それ以外を腹部肥満なしと定義した。血液・尿検査所見、血圧ならびに糖尿病罹病期間や家族歴、既往歴、体重歴等の問診、頸動脈エコー、眼科医による糖尿病網膜症の評価を行い、両群間で比較を行った。
成果
  1. 15年間以上健診未受診者が約半数(47%)を占めた。5年以上の健診未受診例+糖尿病を健診で指摘されても医療機関を受診せず放置した例で初回治療時有意に合併症が進行していた。一方、健診を5年で4回以上受診している例には糖尿病指摘時、網膜症、腎症の進行している例はなかった。国保加入者が入院患者の約55%と一般人口の国保加入率(約30%)に比べ高率であった。
  2. 腹部肥満例は60例(68%)であった。腹部肥満群では、腹部肥満のない群に比べて、 ①高血圧、脂質異常症及び心血管疾患の合併が有意に多かった。 ②BMI (kg/m²)は成人以降に25を超え、有意に体重増加していた。 ③20歳時のBMIが有意に高かった。一方で、網膜症や腎症の進展は両群間で差がみられなかった。BMI 25未満で腹部肥満のある患者における心血管疾患合併率は、BMI 25未満で腹部肥満のない患者と比較して有意に高く、BMI 25以上で腹部肥満のある患者と比較し同程度であった。
考察
  1. まず健診を受診し、糖尿病指摘時には速やかに医療機関を受診することが糖尿病血管合併症進展の予防に重要である。
  2. 腹部肥満2型糖尿病患者は、リスク集積例および心血管疾患合併例が多く、積極的な動脈硬化性疾患の検索が重要と考えられた。早期からの体重を増加させないような介入が、糖尿病・動脈硬化性疾患の予防に重要であることが示唆された。

研究助成成果報告一覧