平成14、15年度
vol.39
平成14年度 国際共同研究
英語版と日本語版の院内感染アウトブレイク調査
データベースの開発
代表研究者
大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻 教授
牧本 清子
- 研究期間
- 2002年11月20日~2004年12月5日
- 共同研究者
- 大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻 助教授 芦田 信之
ピッツバーグ大学大学院公衆衛生学部 準教授 関川 暁
欧米では、アウトブレイクの発生時は、感染経路や感染源などの特定やアウトブレイクの管理情報を収集するため、文献検索を行うことが推奨されている。アクトブレイクの調査結果の報告も、専門職の社会的義務として学術論文に投稿することが多い。しかし、日本ではアウトブレイクの調査方法の教育・訓練の機関が少ない上に、専任の感染管理者が不在の施設も多い。また、文献検索を行うにしても、欧米の文献が殆どであり文献の収集も困難である。加えて病院内で調査を行ったとしても、調査結果は公開されることは殆どない。
そこで、今まで報告されているアウトブレイクを要約し、調査に必要な情報をデータベース化し、アウトブレイクの調査の手順と対策の情報が容易に入手できるようにした。
データベースの開発
論文の選択
Medlineでnosocomial infectionとoutbreakで検索し、600以上の抄録から400の疫学調査の論文を選出した。アウトブレイクは、類似した症状・兆候を呈する患者が、時間・空間の集積性のあるパターンで出現するものである。殆どのアウトブレイクの報告は感染症によるものであるが、まれには感染症以外のものもあり、データベースに含めた。
データベースのフィールドの決定
検索、及び検索結果の表示や印刷のレイアウトの選択肢を増やすため、フィールドを詳細に設定した。概要は大きく4つに分かれ、Ⅰ)論文に関する情報、Ⅱ)アウトブレイクの発生施設の情報、Ⅲ)アウトブレイクの記述、Ⅳ)調査方法、結果、Ⅴ)考察・感染対策である。
- 論文に関する情報
著者、論文のタイトル、雑誌、発表年のいずれの項目からでも検索できるように、別々のフィールドを設定した。 - アウトブレイク発生施設の情報
アウトブレイクの発生した国・地域、施設名とその特徴、ベッド数、病棟・診療科についてフィールドを作成した。多くの論文は施設名を明記してあることが多いが、CDCの調査では、施設の特定に結びつく情報を掲載しない方針のため、施設の特徴についての情報は掲載されていない。 - アウトブレイクに関する記述
アウトブレイクの記述は、原因となる病原体、感染経路、アウトブレイク発生期間/調査期間、感染部位/検体の種類、感染者数/定着者数、アタック率/死亡者数/死亡率を含む。 - 病原体
院内感染が対象であり、アウトブレイクの原因となる病原体を明記した。しかし感染以外でもアウトブレイクがおこるため、感染以外のアウトブレイクも対象とした。非感染性のアウトブレイク例としては、透析クリニックで、器具の劣化による20名の溶血アウトブレイク(Duffy R 等、2000)、手術器具の材質による眼科術後の6名の角膜損傷アウトブレイクなど(Duffy RE 等、2000)もデータベース化した。 - 感染経路
感染経路は9項目に分類した:空気感染、飛沫感染、接触感染、水系感染、食中毒、保菌者、汚染(消毒剤、石鹸など)、疑似アウトブレイク、その他。 - アウトブレイク発生期間/調査期間
- 感染部位/検体の種類
感染部位の分類は欧米でよく用いられている5項目に分類した:手術部位感染(SSI)、血流感染(BSI)、菌血症、肺炎、人工呼吸器関連肺炎(VAP)、尿路感染(UTI)、その他。検体の種類としては、血液、尿、痰、気管支吸引物、その他に分類した。 - 感染者数/定着者数、アタック率
感染者数はアウトブレイクのインパクトを表し、アタック率は病原体の感染力を表すので、感染患者数と、計算可能であればアタック率も提示した。 - 死亡者数、死亡率
死亡数だけでなく、計算可能であれば死亡率も提示した。 - 調査方法、結果
- 感染者の定義
アウトブレイクによる感染と、アウトブレイク以外の感染を識別するために、定義は重要である。できるだけ詳細に引用したが、大半の論文は定義を明記していなかった。 - 調査方法
選定した文献は基礎的な疫学調査から複雑な患者対照研究を含む。患者対照研究は、対照群の定義と選択基準が難しいので、フィールドを設けて研究方法について学習できるようにした。またコホート研究でも検索できるようにした。- 患者対照研究、マッチングの有無
患者群の定義、対照群の定義と選択基準 - コホート研究、前向き、後向き
- 患者対照研究、マッチングの有無
- 具体的な調査項目
ステップ・バイ・ステップで調査手順が分かるように要約した。主要な内容としては、アウトブレイクの同定、アウトブレイクの記述、感染者の見つけ方、調査方法の詳細である。 - 調査緒果
この項目は調査結果や主要な発見を記述した。 - 討論・感染対策
結果への考察と感染対策の実施と評価についてまとめた。
ホームページの開設とデータベース検索
ホームページを開設し、プロジェクトの紹介、検索方法の説明、検索ページの作成を行った。
データベースの検索項目
検索項目は、アウトブレイク発生時に調査したい次の5項目について検索できるように設定した:病原体、感染部位、感染経路、疫学調査方法、病棟・診療科。今までに330の文献を要約し、Pubmedの抄録にリンクを設定した。日本語版は、データベースの英語の分量が多く、難しい専門用語も多いため、機械翻訳を行った。
Webでのデータベースの公開と反応
英国の感染管理者のHospital Infection Societyのメーリングリストと米国の疫学の講義をホームページ上で公開しているEpidemiology Supercourseに掲載した。米国の感染管理者のコメントは、米国の大規模の病院でも、データが標準化されていて情報が把握しやすいため非常に役立つデータベースであるとの評価であった。カナダのLindsay E Nicolle博士やアルゼンチンのMartin O’Flaherty博士のコメントを余禄に入れた。
プロジェクトの考察
このデータベースはアウトブレイクの調査の支援のために開発したが、アウトブレイク対策や感染管理者の教育、感染対策のエビデンスの提供などにも活用が期待できる。
- (1)
調査の手引きとして
アウトブレイクは頻回に発生しないため、米国においても複雑な疫学調査ができる知識・技術を備えた感染管理者は多くない。このデータベースは基礎的な訓練を受けた感染管理者が、“感染者の定義”のフィールドを見て感染者の定義が書け、調査方法も検索結果を参考に調査を開始することができる。アウトブレイクの原因がすぐに同定できない場合、患者対照研究などの複雑な疫学調査を行う必要がある。患者対照研究は対照群の選定が難しいとされているが、このデータベースで、病原体や施設の特徴を考慮して適切な選定方法を選び、調査を実施することができるであろう。
- (2)
アウトブレイクの予防対策の資料の提供
ニュースなどで話題になるアウトブレイクについて、多くの文献を取り寄せ解読しなくても、このデータベースの活用で、各施設で対策を検討するための資料を容易に提供することができる。日本ではアウトブレイクへの対策が遅れていることが多いと思われ、職員への対応、施設面の整備なども検討が必要である。職員への対応マニュアルを例にあげれば、Norwalk-like virusは、空気感染をおこし、職員への感染も多い院内感染の一つである。カナダのトロントの大学病院でのアウトブレイクでは、多い日には一日に79名の医療者が感染し、最終集計では635名が感染した(Sawyer LA、1988)。この感染症は2、3日で症状がおさまるため対策は困難であるが、外来の汚物の処理方法、人の往来の制限、職員の職場復帰の条件など、文献を整理して発生時の対策マニュアルを準備しておく必要がある。
レジオネラ菌によるレージョン病は、日本では循環式風呂での感染で知られるようになったが、欧米では臓器移植患者や高齢者がレージョン病に集団罹患している。日本でも臓器移植や骨髄移植などが行われているが、レージョン病対策は遅れている。Koolら(1998)の後向き調査の報告では、10年間の臓器移植患者の中で、25名がレージョン病の院内感染に罹患していた。レージョン病は他の肺炎と鑑別診断が困難であるため見過ごされやすいアウトブレイクである。レージョン病対策として設備面の改善の予算が必要であり、このデータベースを活用して、管理者の理解を得るためのエビデンスを容易に集めることができる。
欧米の論文に掲載されている日本のアウトブレイク調査報告は数例しかなく、どのようなアウトブレイクがどれだけ発生しているのか把握しにくい。本データベースでは、欧米における消毒剤の汚染によるアウトブレイク調査例が13、石鹸の汚染によるアウトブレイクが7例あり、けしてまれな出来事ではない。通常、消毒剤はアウトブレイクの病原体に対して消毒効果があるが、汚染のレベルが高いと消毒効果はなく、感染源となった例である。このデータベースで、施設内での消毒剤の管理について必要なエビデンスを検索し提示することが容易にできる。
日本で公開されたアウトブレイクの調査結果は、保健所に報告してから調査が行われるので、適切な証拠が失われていることが多く、欧米の調査のように明確なアウトブレイクの原因の特定が困難である。各施設内で、基礎的な訓練を受けた感染管理者が、早期にアウトブレイクを発見し、早急な対策と共に迅速な調査を行える体制の構築が必要である。
このデータベースの作成により、標準化されたアウトブレイク調査報告のフォーマットを用いて、調査結果や対策の評価などの比較が可能になる。しかし、論文の要約は非常に時間がかかり、数多く発表される論文をまとめていくには膨大な費用がかかる。従ってインターネットで、いろいろな国から直接報告できるコクランライブラリーのようなシステムの構築が必要と思われる。
参考文献
Sawyer LA, Murphy JJ, Kaplan JE, Pinsky PF, Chacon D, et al. 25- to 30-nm virus particle associated with a hospital outbreak of acute gastroenteritis with evidence for airborne transmission. Am J Epidemiol. 1988 127:1261-71
Kool JL, Fiore AE, Kioski CM, Brown EW, Benson RF, et al. More than 10 years of unrecognized nosocomial transmission of legionnaires' disease among transplant patients. Infect Control Hosp Epidemiol. 1998 19:898-904
Duffy R, Tomashek K, Spangenberg M, Spry L, Dwyer D, et al. Multistate outbreak of hemolysis in hemodialysis patients traced to faulty blood tubing sets. Kidney Int. 2000 57:1668-74
Duffy RE, Brown SE, Caldwell KL, Lubniewski A, Anderson N 他. An epidemic of corneal destruction caused by plasma gas sterilization. The Toxic Cell Destruction Syndrome Investigative Team Arch-Ophthalmol. 2000 Sep;118(9):1167-76
平成14年度 国際共同研究
日米共同研究:医療をめぐる情報と倫理と法
代表研究者
東京大学法学部 教授
樋口 範雄
- 研究期間
- 2002年11月1日~2003年10月31日
- 共同研究者
- University of Arkansas School of Law, University of Arkansas for Medical Sciences Arkansas Bar Foundation Professor of Law, Adjunct Professor of Medical Humanities Robert Leflar
上智大学法学部 助教授 岩田 太
本研究グループの課題は、医療情報の保護と利用に関する日米比較の問題を中核とし、医療倫理やこれらの問題に関する法の役割に及ぶ。
まず、医療情報保護の問題に関しては、現状を知るべくインタビュー調査を継続した他、2002年9月の日米法学会シンポジウム「アメリカの医療と法:情報と倫理」をグループメンバーで実施した後、12月1日の日本医事法学会において「医療情報の保護と利用」と題するミニシンポジウムを行った。それらの内容は、それぞれの学会誌に登載された。
- 医療情報の保護と利用の問題:医療情報の問題については、アメリカ診療情報管理士協会理事を招いてセミナーの機会を持ち、アメリカにおけるHIPAA法プライバシー保護規則の実務へのインパクトを知ることができた。
- 医療倫理の問題:倫理の問題については、メンバーが放射線医学総合研究所の臨床医学研究倫理審査への視察を行うなど、引き続き国内外の問題の調査・検討を進めた。また、研究会内においても、生命倫理の問題を意識した検討を多く行った。2003年3月には、公開シンポジウム「現代社会の倫理と法」に参加・協力し、アメリカより倫理学者も招聘した。
- 法と医療の距離の問題:医療事故問題にどのような法制度で対処すべきか、情報公開との関係をどのように制度設計してゆくべきかにつき、日米を比較しながら一定の検討を行った。とりわけ、日本において刑事司法への依存度が高いことが指摘された。
平成15年度 海外派遣
ターミナル期の小児がんの子どもの
緩和ケアプログラムの開発
派遣者
千葉大学大学院看護学研究科母子看護学講座小児看護学教育研究分野 博士後期課程
中村 美和
- 派遣期間
- 2003年10月6日~2003年11月28日
- 受入先
- Monash University(オーストラリア)
実施概要:
2003年10月5日から11月28日まで、緩和ケアを先駆的に実施しているオーストラリアにおいて、子どもを対象とするホスピスと、成人を対象とするホスピスの研修および訪問調査を実施し、オーストラリアにおけるホスピス・緩和ケアの実態を把握した。結果、日本における小児の緩和ケアの今後の課題を明確にするとともに、日本における小児の緩和ケアにおける看護実践モデルと、看護師の専門性の向上について示唆を得た。
研究成果発表方法:
大学の研究分野内の勉強会において発表した。学会等での発表、学会誌、雑誌等への投稿は未定。
研究報告:
Ⅰ.目的
日本において、ターミナル期の子どもに対して、全人的・包括的な緩和ケアが提供されていない。今回、オーストラリアにおける緩和ケアの実態を訪問調査し、日本における小児緩和ケアにおける看護師の役割について示唆を得ることを目的とした。
Ⅱ.方法
- 訪問施設:1)Very Special Kids(子どもの緩和ケア提供団体)、2)Peninsula Hospice Service(成人を対象とした地域緩和ケア提供施設)、3)Peninsula Palliative Care Unit(成人を対象とした独立型ホスピス)
- 上記の施設を訪問し、見学・研修、責任者との面接により、各施設の特徴やケアの実際、看護師の教育およびストレス・マネジメント、他職種とのチームワークなどの項目に関して情報を収集した。
Ⅲ.結果
下記には、Very Special Kidsの活動と実践の概要を中心に報告し、さらに、オーストラリアにおける成人と小児の緩和ケアにおける看護の役割の相違についても記述した。
- Very Special Kids(ビクトリア州メルボルン)の概要
Very Special Kidsは、約1/3は政府からの助成金、約2/3は寄付金で運営されている。下記にはVery Special Kidsの中に存在する部門のうち、1)Family Support Teams(子どもと家族のサポートチーム)と、2)Very Special Kids House(子どものためのホスピス)について記述した。-
Family Support Teams
1984年、Margaret Noon(看護師・シスター)と、白血病で子どもを亡くした2家族が活動を開始した。対象者は、進行性の生命を脅かすような疾患(筋ジストロフィー、嚢胞性線維症、先天性心疾患、腎疾患、小児がん)の子どもとその家族であり、現在の登録者は年間約680家族である。
サービス提供者は、心理学者、Social Worker、Welfare Worker、ボランテイアである。2002年後半から、7エリアに支部を作り、遠隔地の子どもたちにもケアを提供できるようにしている。
サービス内容は、①カウンセリング、②ビリーブメント・サポート・プログラム(遺族へのケア)、③Hospital Visiting(ボランティアや心理学者が病院に出向き、食事介助・遊びの提供などの日常的な世話、きょうだいの世話・家族の話し相手などの家族のサポート、そしてカウンセリングを実施)、④In-Home Support(Hospital Visitingと同様の内容を在宅に出向いて実施)、⑤Sibling Programs(きょうだいが闘病中あるいは、きょうだいを亡くした子どもを対象としたグループ活動)、⑥その他:ボランティア教育と、子どもとその家族の社会性の維持、寄付金の獲得、コミュニティに対する啓蒙活動を目的としたイベントの開催、であった。 -
Very Special Kids House
Family Support Teamsが設立されて12年後の1996年に、オーストラリアで初めて作られた子どもとその家族のためのレスパイト・ケア/緩和ケアセンターである。子どもとその家族は、無料でホスピスでの緩和医療と緩和ケアを受ける。
入院の目的は、①症状マネジメントと、ターミナルケア、緩和ケアのための入院、②レスパイト・ケア(2・3週間/年/1家族)のための入院、③病院から在宅への移行期の在宅ケアの準備のための入院がある。
対象者はFamily Support Teamsと同様であり、年間200家族が利用している。医療体制は、近所に開業している小児科と緩和医療学を専門としている女医が主治医となり、24時間体制で対応をしている。
施設の構造として、8床の部屋(全室個室)、浴室、Multi-Sensory Room(子どもに音楽・光・水などの心地よい刺激を与えることによって、ペインコントロールとリラクゼーションをはかる部屋)、Music Therapy Room、テレビ・ルーム、プレイ・ルーム、キッチン、プレイグラウンド、Family Accommodation(家族の宿泊施設)が設備されていた。
看護体制は、3交代制、看護:患者=2:1であり、1シフトに必ず、RN(Registered Nurse;日本では正看護師に相当)がいるようにしていた。このホスピスにいるRNは、小児看護または緩和ケアのPost Graduate Level(半年から1年の専門コースを受講し、各領域の専門ナースになる)の教育を受けている者であった。看護の内容は、①医療処置(症状マネジメント、与薬・投薬)、②日常生活上の世話(遊び、食事、排泄、清潔ケア)、③家族に対するケア、④看護計画立案・評価、カンファレンスであった。この施設では、Nurse Manager(看護師長)が、患者がホスピスから病院・在宅へ移行する際に、コーディネートし、コンサルタント業務をしていた。また、Very Special Kids Houseのスタッフと、Family Support Teamsのスタッフとの間で合同ミーティングが実施されており、合同チーム(Interdisciplinary Team)アプローチによって、子どもとその家族に対して全人的・包括的に緩和ケアが提供されていた。
-
Family Support Teams
- オーストラリアの成人と小児における緩和ケア実践モデルと看護の役割
オーストラリアの成人を対象とした緩和ケアには、病院、ホスピス、在宅を緩和ケア提供場所としたTriangle of Careモデルという実践モデルがあり、このモデルの中で、ナースコンサルタントという緩和ケア専門ナースが重要な役割を果たしていた(図1参照)。ナースコンサルタントと行動をともにすることによって、ナースコンサルタントの役割として、①各病棟の医療者への症状マネジメントについてのアドバイス、②病院・ホスピス・在宅・クリニックを受診している患者と家族の症状マネジメントについての直接的な教育・指導、③スタッフ教育・サポート、④退院計画の立案、⑤研究、⑥コーディネーションが抽出された。ナースコンサルタントは、病院に所属しながら、病院に入院している患者のみでなく、ホスピスや在宅にいる患者もコーデイネートしていた。つまり、緩和ケアを提供する場所が変わっても、絶え間ない緩和ケアを提供することが可能となっていた。小児に関しては、成人の緩和ケアのナースコンサルタントほどに小児専門ナースが、施設を超えて機能的に活動・実践しているとは言いがたい。しかし、在宅への移行を円滑にするために、病院に所属している小児専門ナースが、施設を超えて訪問看護ステーションに教育・指導に行くなどの取り組みがなされていた(図2参照)。図1 成人・老人の緩和ケア実践モデルにおける看護の役割
図2 小児の緩和ケア実践モデルにおける看護の役割
Ⅳ.考察
- 日本における小児の緩和ケアの今後の課題
オーストラリアと日本における緩和ケアの実態を比較した結果、①死に対する人々と医療者の姿勢に起因する積極的治療から緩和ケアヘの移行の困難性、②医療システムにおける緩和ケアの位置づけの低さ、③緩和ケアの対象疾患に制限があること、④実践モデルの不備、あるいは実践モデルが普及しにくいこと、⑤専門性の欠如、⑥研究を実施することの困難性、およびエビデンスの欠如、⑦医療スタッフに対するケアが不十分、⑧資金源が緩和ケアのバリアとして考えられた。 - 日本における小児の緩和ケアの方向性
日本においては、Multidisciplinary Team(多職種チーム)アプロ一チが主流であるが、オーストラリアのようにInterdisciplinary Team(合同チーム)アプローチにより、緩和ケアを提供することが必要である。
また、日本には小児の緩和ケアに携わる専門職者がほとんど存在しないため、今後は教育学、心理学などの他領域学問と協働で緩和ケアを提供することの必要性が示唆された。
小児緩和ケア領域においては、在宅ターミナルケアが発展していないのが現状である。今後は、現在ある資源を活用し、成人や老人を対象とした訪問看護を実施している施設と協働して、小児の緩和ケアを提供していくことの必要性が示唆された。さらに、小児の緩和ケアはエビデンスを確立させることが困難であり、発展の難しい領域ではある。したがって、実践と教育・研究をつなげた実践モデルが必要であると考えられた。オーストラリアの実践モデルに基づき、日本の小児の緩和ケアにおける看護実践モデルを暫定的に作成した(図3参照)。図3 小児の緩和ケアにおける暫定的な看護実践モデル
- 看護の専門性の向上
オーストラリアの小児の緩和ケアに携わる看護師と比較して、日本の看護師には、小児のペインコントロールをはじめとする症状マネジメントに関する知識と技術が不足していると考えられた。日本にも、小児看護領域において、緩和ケアに関する専門的な知識・技術をもち、かつコーディネート能力をもった専門ナースが必要であり、このようなナースが施設を超えて患者をコーディネートできる体制を構築することも必要である。そのためには、看護基礎教育と現任教育における教育を充実させていくとともに、看護師の実践を評価することの重要性が示唆された。
Ⅴ.まとめ
今後は、暫定的な看護実践モデルに基づき、ターミナル期にある子どもとその家族に対して看護援助を実施し、小児緩和ケアにおける看護実践の技術を構築させていくこと、および、小児科の看護師のサポートとしてのグリーフ・ワークを研究課題としたい。
参考文献
- Kopecky, E, A., Review of a Home-Based Palliative Care Program for Children with Malignant and Non-Malignant Diseases, Journal of Palliative Care, 13(4), 28-33, 1997.
- McGrath, P, A., Development of the World Health Oraganization Guidelines on Cancer Pain Relief and Palliative Care in Children, Journal of Pain and Symptom Management, 12(2), 87-92, 1996.
- McGrath, P, A., End-of-Life Care for Hematological Malignancies: the Technological Imperative and Palliative Care, Journal of Palliative Care, 18(1), 39-47, 2002.
- 野中 淳子, 熊谷 恵子, がんの子どものターミナルケアにおける看護の実態, 9(2), 13-19, 2000.
- Twycross, R., Symptom Management in Advanced Cancer, Second Edition, Radcliffe Medical Press Ltd, UK,1997.
研究助成成果報告一覧
