平成9、10年
vol.24
平成10年度 国際共同研究
小児科薬物治療における
オフラベル使用に関する日米の比較
US-JAPAN Comparative Study on Off-Label Drug Use for Pediatrics
代表研究者
国立小児病院・小児医療研究センター 小児薬理研究部長
辻本 豪三
- 研究期間
- 1998年10月1日~1999年9月30日
- 共同研究者
- ジョンソン医薬品研究所 所長 ステファン・スピルバーグ
久留米大学医学部小児科学 中村 秀文
目的
小児の医薬品は、有効性と安全性をないがしろにされたまま放置されてきているのが現状である。その結果、日常の小児の薬物療法において、添付文書にその薬物の用量・用法・安全性について明確にされていないまま用いられている医薬品(オフラベル使用)があり、問題となっている。小児に処方する場合の臨床試験のデーターが、十分でないため日本では添付文書に小児適応・薬用量についての記載がない(オフラベル)品目が多いことが理由の一つである。アメリカでは、1997年に、小児で広く使用される可能性のある薬物に関しては、製薬企業は申請時に小児に対する安全性と有効性に関する情報が提出されることが義務づけられた。こういった日米間での行政上の違いから生じるオフラベル使用(off-label use)の問題点を明らかにし、オフラベル使用の現状を是正するための資料作成・臨床薬理学的研究を行うことを目的とする。
成果報告
最近特に米国FDAを中心に、小児臨床においては既承認医薬品が添付文書に基づかない使用、いわゆる“off-label使用”が問題とされてきている。この問題のみならず広く小児の医療の改善(特に薬物治療)の行政的な対応が大きく変化してきている。具体的な取り組みとして、米国の小児薬理研究ユニットのネットワーク“The Pediatric Pharmacology Research Unit Network(PPRU)”を調査し、日本でもこのようなネットワークの構築が急務であるとの結論を得た。小児臨床においては既承認医薬品が添付文書に基づかない使用、いわゆる“off-label使用”が常態であるという、非常に不可思議な状態が続いてきている。現場の小児科医たちは自己責任のもと、保健適応外の処方を余儀なくされ、また患児の側からはその薬剤に関しての小児に於ける詳細な情報を欠いた危険な状況が続いている。この問題は、日本だけではなく、米国、欧州においても、その保険制度の相違はあるものの、存在してきている。しかし、ここ数年、特に米国FDA、米国小児科学会を中心として、正面からこの問題に取り組む努力が行政的にもなされ、大きく変化しつつある。その背景には、米国政府の政策として小児の医療の改善が大きく柱として取り上げられ(Pediatric plan)、更に1997年11月21日、米国クリントン大統領が1997年のFDA近代化法に署名し、法律となった(Pub.L.105-115)近代化法の成立に依るところが大きい。近代化法(21U.S.C.355a(b))に基づき、小児研究専門家と相談の上、小児情報の追加が小児患者に対して保健上の有益性をもたらすと思われる既承認医薬品のリスト(以下リストと表示)を作成し、優先順位を付け、公表することがFDAに求められ、それをうけFDAは“小児情報の追加が小児患者に対して保健上の有益性をもたらすと思われる既承認医薬品のリスト”(ドケット番号98N-0056)を作成した。このリスト作成は、FDAを中心とし、米国小児科学会(AAP)、米国製薬工業協会(PhRMA)、国立予防衛生研究所(NIH)、小児薬理研究ユニットのネットワーク(PPRU)、全米ジェネリック医薬品企業連合(NPA)、ジェネリック薬産業協会(CPIA)、全米医薬品工業協会(NAPM)および米国薬局方(USP)からの勧告に基づき編纂された。
FDAは小児に起こる適用について成人で既承認のあらゆる医薬品についての情報が、小児患者に保健上の有益性をもたらすことができると思われると結論づけ、したがって、医薬品評価研究センターおよび生物製剤評価センターによる既承認医薬品で小児に起こる適応について成人使用の既承認医薬品のすべてをリストに載せるべきであり、かつFDAはリストに優先順位をつけることを行っている。FDAはリスト案およびリスト案に対して提出されたコメントを審査して優先医薬品のリストを作成した。特定の医薬品の追加または削除を要請するコメントは、その裏付け情報と共に、その医薬品が基準に適応しているか否かを決めるため、該当する審査部門により審査が行われた。審査部門の評価に基づき、リスト案に対する変更がなされた上、優先リストは作成された。
米国衛生研究所における“The Pediatric Pharmacology Research Unit Network(PPRU)”は小児の適切な薬物治療の目的のため、The National Institute of Child Health and Human Development(NICHD)が構築したものである。PPRUの目的は新薬、もしくは既に(大人で)承認済みの薬物の小児における安全かつ効果的な使用を開発、促進することである。その為、基礎、臨床両面から情報を収集、統合化する。
具体的目標としては
- FDA、企業、NICHDと協力して、新薬や既承認薬の小児における臨床薬物動態、薬効(薬物感受性)の調査のための臨床治験を実施する。
- 既に現在発表されている小児における臨床薬物動態、薬効(薬物感受性)の調査、分析評価を行い、小児薬物療法の情報充実を図る。
- 新しい薬効評価技術(分子生物学、ゲノムテクノロジー、ゲノム薬理学的手法など)を導入し、これら技術革新が従来の臨床薬物動態、薬効(薬物感受性)に与える影響等を検討する。特に、小児の場合は発達、成長が与える影響により薬効、安全性は大きく変化するのでこれらのアプローチは極めて重要である。また、これらの具体的目標を完遂し、evidence-basedな小児臨床薬理を確立することにある。既に、1997年約1000人の小児が60のプロトコールの臨床治験に参加しており、54種の異なる薬物が検討されるという実績を上げている。今後このシステムはますますその実績をあげるとともに、更に新たなる新薬開発時の規定-例えば、患者の遺伝子多型によるresponder やnon-responderの区別、といったゲノム薬理学的パラメータの導入-といった、新たな展開も予測させる。現在米国衛生研究所における “The Pediatric Pharmacology Research Unit Network (PPRU)” は一つのtherapeutic orphanの解決法であると考えられ、至急日本でもこのような体制が必要となると予測される。このような示唆のもと、国立小児病院・小児薬理研究部は国立唯一の小児薬理研究部であることの責務より、準備室としてホームページを立ち上げた。主としてICH関係の作業の進捗に関して情報を公開したが、至急米国のようなネットワーク整備の必要性を痛感した。
平成10年度 国際共同研究
手術後病院食の国際比較
International comparison of past-operative diets
代表研究者
東京都立大久保病院 外科医長
丸山 道生
- 研究期間
- 1998年10月1日~1999年9月30日
- 共同研究者
- 東京医科歯科大学 第一外科 助教授 五関 謹秀
Consultant Surgeon, University of Keele, North Staffordshire Hospital, UK
マーク・ディーキン
はじめに
病人がとる食事というものは、栄養学的な要素から考えられていると同時に、その国や地域の食文化と深くかかわっているものと想像される。米を主食とする我が国においては、米のお粥を中心とした病院食のシステムとなっている。消化器手術後には、重湯から始まり三分粥、五分粥、七分粥、全粥と徐々にお米の多く、水分の少ないお粥となり、最終的に通常の御飯である常食となる。このようなお粥のstep upのシステムは日本の術後食の特徴である。世界の国々においてどのような病院食、術後食があり、どのようなシステムになっているかの検討や国際的な比較検討は現在までいっさいなされていない。米を主食とする東アジア、東南アジアにおいては、はたして日本と同様なお粥のstep upの術後食があるのか、また米文化ではない欧米ではどのような術後食が存在するのか、非常に興味のあるところである。また術後食の栄養学的な国際的な比較、各国の食文化が術後食に与えている影響など、世界の病院の食事は、科学的側面と文化人類学的側面を合わせ持つ、幅の広い研究テーマである。
対象および方法
実際に、海外の病院を訪ねて、その病院食、術後食の実体を調べた。栄養学的なデータを得、かつ術後食を食して評価した。また術後食の代表として、胃切除後の食事がどのようなものかを調査した。一方、実際に訪問できなかった病院には、胃切除後術後食のアンケート用紙を送付し、質問に答えてもらった。実際に訪れた病院は、アメリカ合衆国ではUCSD Medical Center(San Diego)、Memorial Sloan-Kettering Hospital(New York)、New York Presbyterian Hospital(New York)、Emory University Hospital(Atlanta)の4病院、韓国ではYongdong Severance Hospital(ソウル)、Samsung Medical Center(ソウル)、Chunchon Sacred Heart Hospital(春川)、東水源病院(水源)の4病院、中国では上海第2医科大学新華病院(上海)、金華病院(上海)の2病院、タイではSiriraj Hospital(バンコク)である。アンケートのみは、北京医科大学第一病院(北京・中国)、国立台湾大学医学院附属病院(台北・台湾)、ダッカの病院(ダッカ・バングラディシュ)、Ege University病院(Izmir・トルコ)の4病院である。
結果
1.日本の病院食、術後食の現状
日本においては、病気の回復過程における常食までの移行期にもちいる食事として、流動食、軟食があり、流動食は重湯、軟食には三分粥、五分粥、七分粥、全粥がある。現在、病院によっては七分粥を提供していない病院も認められる。日本の病院食は米の粥、ご飯の主食の柔らかさに応じた副食が供されている。すなわち、重湯、三分粥、五分粥、七分粥、全粥、常食の6ステップが存在する。流動食は500 - 800kcal、三分粥は1000 - 1100kcal、五分粥は1100 - 1300kcal、七分粥は1200 - 1500kcal、全粥は1300 -1700kcal、常食は1600 -2300kcalである。胃切除後の食事はこの6ステップまたは5ステップが供され、1ステップは1日、もしくは2日をかけてステップアップする。食事の特徴は刺激の少ない消化吸収の良い食品を使用することを原則としている。また胃切除後の食事は一部分食とされており、その場合は1日6回供されてる。
2.米国における病院食、術後食の現状
米国においては、“American Dietetic Association, Mannual of Clinical Dietetics”というアメリカの栄養士の学会のマニュアルが一般的に用いられており、そのため病院食、術後食は全土で均一化されている。また病院の食事は、Marriott、Morson、Aramarkなど大手の病院食を扱う企業の依託となっており、病院によっては栄養士も企業からの依託職員でまかなっている。このことがいっそう病院食、術後食の均一化を押し進める結果となっている。術後食は、「clear liquid diet」、「full liquid diet」、「soft diet」、「regular diet」の4段階になっている。「clear liquid diet」は1000kcal程度で、ミルクなどの乳製品、食物繊維、脂肪を含まないことが原則とされている。日本では乳製品は流動食の時に好んで出され、脂肪も25g程度含まれている。「clear liquid diet」のメニューとしては、「Broth」もしくは「Bouillon」とよばれる塩気のほとんどないコンソメスープや果物のジュース、ゼラチンなどである。品数としては3-4品である。この段階からteaのほかcoffeeもメニューに加えられている。一般的に「clear liquid diet」の段階では、6回食となってる。食事のカロリーのほぼ95%以上が炭水化物によっている。またタンパク質補給のために、sapplementとしてfat freeの経腸栄養剤がしばしば用いられている。第2段階は「full liquiddiet」で、1400 - 2000kcal である。ミルクなどの乳製品、食物繊維、脂肪分は許されている。soup、pudding、milk、juiceなどがそのメニューとなっている。品数はやはり3 -4品である。やはり6回食が一般的で、メイン3回、スナック3回である。脂肪分はカロリーの約30 - 35%程度と、clear liquidの段階から一気に上がっている。第3段階は「soft diet」であり、2400kcal程度である。硬い肉や、ナッツや種の入ったcereal、また食物繊維の多い果物など、噛み砕くのが必要なものは禁じられている。メニューとしてはパン、muffin、waffle、cereal、noodle、pasta、柔らかくした野菜類、柔らかな肉、魚、卵などである。第4段階は「regular diet」で、2500kcal程度である。米国では胃癌の頻度が少ないため、胃切除後の食事のステップアップの速度は決められておらず、その場合、場合によって主治医がオーダーする。消化管運動が回復したら、一般的には1day 1stepとなっているようだ。やはり日本よりずっと食事の上がりは速い。ちなみに御飯は米国ではregular diet に属している。現在、米国では術後食としての、「clearliquid diet」(1,2)に対して疑問を持つ医療関係者もおり、その必要性の是非が議論されている。
3.韓国における病院食、術後食の現状
韓国においてはソウルにある大規模の先進医療をになう、Samsung Medical Center とYongDong Severance Hospitalの2病院と、ソウル近郊の中規模病院である春川聖心病院(春川)、東水源病院(水源)を訪ねた。術後の食事は基本的に3ステップとなっている。「ミューム(米飲)」、と「ジュ(粥)」、「regulardiet」の3段階である。病院によっては「ミューム」と「ジュ」の間に「ミューム+おかず」という段階を設けている病院もある。「ミューム」は術後の第1食にあたり、日本の重湯に相当する。一般的には米と粟を多めの水で煮て、それを裏ごししてあるのが基本形と考えられる。食すると芳ばしい粟の風味がし、塩気はない。粟の量により黄色みをおびた流動食となる。しかし、現在では、病院食、術後食の栄養価の観点から、病院によっては「ミューム」に粉ミルクなどを混ぜて、経腸栄養剤的な要素を持たせている病院も多い。術後はじめの食事は、この「ミューム」、ジュース、経腸栄養剤などがだされるが、副食はない。また胃切除後では6-9回食事が出されるのが一般的である。韓国の「ミューム」に代表される術後の第1ステップは216-840kcal程度である。蛋白、脂肪成分は日本とほぼ同様である。第2ステップは「ジュ」であり、日本の全粥と類似したお粥を基本としている。日本の様に三分、五分、七分といったお粥はない。韓国の「ジュ」は基本的には塩気のない全粥であるが、現在ではアレンジが進んでおり、肉や魚、野菜などが入った「ジュ」もあり、味がついている場合もある。日本ではあまり見られない現象である。「ジュ」には韓国の一般的な食事に見られるように、副食が多く、5品ほど付いてくる。日本のお粥の段階の病院食をみて、韓国側からは副食の数が少ないことを指摘されることが多い。副食にはかならず「水キムチ」が付いてくる。どんな近代的な病院でもその栄養部門で自前の水キムチを漬けて作っている。とうがらしの利いた通常の白菜キムチは病院食には出されないのが一般的なようだ。「ジュ」は1800 - 2000kcalである。第3段階は「regular diet」であり、日本の常食である。この段階で1900-2000kcalである。栄養成分に関しては日本と大差がない。胃切除手術後のステップアップは、日本に比較して速い。消化管の運動が改善した時点で、水分の摂取から始まるのは同様だが、「ミューム」の段階は1日から2日間ですぐに「ジュ」の段階になってしまう。日本では全粥の段階までに5日から9日間ほどかかる。一般的に胃切除後は「regular diet」まではあがらず、「ジュ」のままで退院となる。日本においても全粥の状態で退院することが一般的である。
4.中国における病院食、術後食の実際
上海の2大病院を訪ねて、その実際の状況を確かめた。術後の食事は4段階になっている。「流質(リューツー)」、「半流質(パンリューツー)」、「軟食(ナンツー)」、「普食」の4ステップである。「流質」は日本の流動食にあたり6回食として出される。副食はこの段階では付かない。6回の内、1回は米湯(日本の重湯にあたる)で4回はいろいろな種類のスープ、残りの1回は「フーコン」という経腸栄養剤である。スープは肉(豚、牛、鶏)、魚、大豆、野菜、果物、卵などから作られたスープで、食してみると本場の中華スープで、とてもおいしいものである。上海では、甘いものが好まれるため、重湯に砂糖をかけたり、小豆のスープ(日本のおしるこにあたると考えられる)なども「流質」として患者さんに提供されている。蓮の根からとったデンプン質や豆乳の粉もスープの調理の際に栄養成分として盛んに使われている。「フーコン」は上海で作られている粉末の栄養剤で、これをお湯に溶かして飲む。蛋白質に富み、ビタミンも含まれている。「流質」の1回の分量は約200ccほどである。カロリーとしては1日量で約800kcalである。第2段階は「半流質」である。約1600kcalである。日本で言う全粥程度にあたり、主食としての中心は粥である。副食も付いてくる。また小麦が原料となっているものは消化がよいと考えられており、中国パン、饅頭、麺類などはこの「半流質」として患者に提供されている。パンなどはスープに漬けて柔らかくして食べられている。「半流質」は4-6回食として患者に出されている。第3段階は「軟食」である。カロリーは1800-2200kcalであり、主食としては柔らかく炊いたご飯がだされる。日本の常食、軟菜にあたると考えられる。第4段階は普食であり、カロリーは2000-2400kcalである。主食としては比較的硬く炊いたご飯が出される。日本の常食にあたる。胃切除後の食事のステップアップは、消化管運動が回復したら、水分を与え問題なければ、「流質」を与える。2-3日間「流質」のあと、「半流質」となる。「半流質」の期間は、病院により異なり、新華病院では約3日間で、ついで「軟食」へと移行し、退院となる。金華病院では退院まで「半流質」を続け、退院後も手術後1ヵ月半までは「半流質」を自宅でも続けるように指導する。このステップアップの速度としては、日本の流動食から全粥にいたる期間よりやや短めであり、また、日本の場合はその段階が細かく分かれている違いがある。
5.タイにおける病院食、術後食の実際
バンコクのSiriraj病院は入院患者2500食、スタッフ用2500食を毎食作っている巨大な栄養科だけのビルを持つ大病院である。ここの病院食、術後食はタイの代表的なものと考えられている。術後食は4段階になっており、「liquid diet(レオサイ)」、「soft diet(オーヨガイ)」、「light diet(オーカウトン)」、「regulardiet(アールンタマダー)」、である。「liqyid diet」は1日熱量が750kcal程度であり、主体は重湯のような米の煮汁である。重湯と比較すると、まるで味のない米の水の様で、濃厚さはない。米の白い粉が湯冷ましの下の方に沈んでいるような感じで、塩味はない。ジャポニカ米と米の粒の長いタイ米との違いが、この差を作っていると考えられる。この米の水が主食の役割で、それに副食として、スープ、ミルク、ジュースなどがつく。スープの代表的なものはコンソメのうすいもので極わずかに塩味がついている。また、ジュースはタイでとれる様々な果物のジュースがあり、バラエティーに富んでいる。また、eggnogに似た飲み物も頻繁に出される。「liquid diet」にはいっさいfiberが含まれないのが原則とされている。3回食で出されているが、栄養をさらに必要とする場合は、supplementとして、病院で作っている経腸栄養剤を内服させている。これは卵としょ糖を主成分として、ビタミン、ミネラルを配合したオリジナルな経腸栄養剤である。第2段階は「soft diet」で、その1日の熱量は約1300kcalとなっている。カロリーとしては日本の五分粥程度にあたる。出てくる食事はその名前が示すように、柔らかなものである。その主食に当たるものは、タイ米のお粥である。説明では水5、米5の割でまぜて炊くのだが、日本の七分から全粥程度の様相である。タイ米は、一種のインディカ米で、粥にしても独特の香りがあり、粘りけ、べとつきも少ない。これには塩味は付いていない。また粥には肉や魚のミンチが入れられていることもある。また主食として、うどん状、ヌードル状のものも出される。副食としてはfiberの少なくなるように工夫されており、柔らかく調理された肉類、野菜類が中心である。fiberの多いパイナップルや鳥肉は皮の部分は出さない、またトマトなどの生野菜も付かない。タイ料理の特徴である、辛さは抑えられている。とうがらしの汁が出されるのも「regular diet」になってからである。しかし、「soft diet」ですでにタイ料理の風味を十分味わうことができる。第3段階は「light diet」で、1日熱量は約1600kcalである。日本の全粥の段階にた当たると考えられ、熱量もほぼ等しい。「light diet」においてもそのメインは全粥程度のお粥である。fiber制限が軽くなるので、パイナップル、生野菜も出てくるようになる。またうどん、ヌードルも出される。基本的には「soft diet」との違いは、食物繊維の量である。ほとんど副食の制限がなくなる。またフルーツが多用されているのは、南国の特徴といえよう。第4段階は「regular diet」であり、熱量は1800kcalほどに設定されている。これは一般的なタイ料理であり、サイドにはとうがらしの汁が付いてくる。胃切除後のステップアップの速度に関しては、消化管の機能が回復したら、1日1ステップほどであがっていくというが、胃癌の頻度も少なく、胃切除後の食事のステップアップに関しては個々の症例で違っているようだ。しかし日本よりはその速度は速いと考えられる。
6.アンケート調査での病院食、術後食の実際
- Ege University病院(Izmir、トルコ)
clear diet、liquid diet、soft diet、full dietの4段階である。clear dietは水、お茶、fiberの含有しないジュースなどで、liquid dietはスープ、pudding(米の粉、ミルク、砂糖でつくる)、フルーツジュースなどである。soft dietになるとマカロニ、米と水で作るピラフ、ヨーグルトなどである。胃切除後は、亜全摘術後は4 -5回の分食となっており、全摘術後は6 -8回の食事となっている。ステップアップのスピードは消化管運動が回復したのち、clear dietから1日ステップであがってゆくので、日本より速い。 - ダッカ(バングラディシュ)
liquid diet、semi-solid diet、solid dietの3段階となっている。これらの術後食の特別の名前は無いということである。liquid dietの段階では水、澄んだスープ、ミルクなどが出され、semi-solid dietの段階ではお粥、チキンスープ、魚スープなど、solid dietはregular dietにあたる。 - 国立台湾大学医学院附設医院(台北・台湾)
台北にある台湾大学の病院では、胃切除後は、食事開始後の日数により胃切飲食一、二、三、四、五、六、七、八と決められており、1日1ステップずつ上がっていく。胃切飲食一は米湯(重湯と考えられる)と野菜のスープで、胃切飲食二はそれに五分粥も出される。胃切飲食三では肉の入った粉粥やスープで、胃切飲食四は全流質飲食である。この段階までが中国での流質とほぼ同様のメニューと考えられる。胃切飲食五になると半流質飲食となり粥、麺類、蒸しパン類、果物ジュースなどがでてくる。胃切飲食六も半流質飲食で同様である。胃切飲食七、八は軟食にあたり、八分粥や魚、肉、麺類などがだされる。約5-10日で全粥にまで上がる。日本とほとんど同じ速度のステップアップである。 - 北京医科大学第一病院(北京・中国)
術後の食事は上海同様である。ステップアップに関しては、腸管の機能が回復した後、第1日は糖水(糖分のある水)もしくは米湯(重湯)1日6回、毎回100ml。第2日は、糖水もしくは米湯1日6回、毎回200ml。第3日は半分量の流質、第4日は全量の流質。第5日は半流質となっている。
考察
日本の病院食、術後食はお粥の程度でその名前が付けられており、米つぶの全くないものは「重湯」と特別の呼び名がある。あとはそのお粥の米の割合により、三分粥、五分粥、七分粥、全粥という段階になっている。偶数の割合の粥は日本の病院食には存在しない。中国や台湾においては、病院食のお粥は八分粥にあたるという。日本にはこのお粥の呼び名がすなわち病院食の名前となっている。五分粥といえば、五分粥が主食で、それにおかずの副食がつくわけである。お粥の名前がその病院食の名前となっているのは、今回の調査の限りでは韓国だけである。韓国は「粥(ジュ)」が第2段階の食事の名前となっており、これは日本での全粥の状態のお粥に副食が付く食事の段階も指している。日本と韓国においては米を食事の中心におく習慣が徹底しているからと考えられる。中国では、小麦を使った食事も揚子江以北では食の中心でもあり、これら麺類、パン類、饅頭類などが病院食、術後食にも頻繁に使われ、また第1段階でも重湯は6回食の1食に過ぎず、粥偏重の日本の病院術後食とは違ったシステムとなっていると感じられた。タイにおいても、うどん類や麺類が多く出され、米が主食の国でも、日本での米、粥の扱われ方とやや違っている。韓国においての第1段階の「ミューム」は、米と粟が入っているのが一般的で、その香り、風味が独特であり、さらに粉ミルク等をいれて、栄養価をあげようとした試みも多くの病院でなされている。こう考えると、米を主食とする国々の中でも、日本の病院食、術後食は米文化に偏り、そこから抜け出せないのが現状である。日本の重湯に粉ミルクを入れたり、経腸栄養剤で代用したりする試みは、ほとんど見あたらない。私自身、術後の重湯の替わりに、経腸栄養剤を患者さんに出したことがあるが、患者さんにはすこぶる評判が悪く、重湯を希望されるケースばかりであった。
韓国の「ミューム」は非常に興味深い病院食である(3)。米と粟を大量のお湯で炊き、裏ごししてある。これを病気の子どもにおかあさんが作ってあげることもあるという。しかし多くの日本人が実際には重湯を食したことが無いように、ほとんどの韓国人も「ミューム」を口にしたことがないという。いまでは病院食で残っているが、このような食事というものは、古い時代からあまり手つかずに、伝統的に作り伝えられてきたと考えられる。いわゆる「残存」である。なぜ米だけではなく、粟も入っているのかに興味がある。中国の北では粟を「小米」といって、そのお粥をよく食べ、中国の北の代表的な粥である。米の炊き方も中国の北と韓国のごく南を除いた大部分では伝統的に「湯とり法」(大量の水で米を煮て、煮上がったところでお湯を捨てる方法)であり、雑穀類もかなり多く食生活に入り込んでいるという(4,5)。中国の北の地方と韓国とは穀物やその調理法に関しての一つの食文化圏を形成している。中国北方の文化がこの「ミューム」という特徴的な流動食を生み出した母地ではないかと考えている。これを実証するためには、今後中国の北での病院食、病人食を検討する必要がある。この「ミューム」を軸として、病人の食事に関しての医療人類学的な新しい知見が展開されることを願っている。
米国の「clear liquid diet」では、今回調べた他の国や日本と違い、脂肪はいっさい使用せず、乳製品も出さない。カロリーのほぼ全部が糖質から摂取されるように工夫されている。手術直後、体力の落ちた状態では、脂肪やファイバーは使用しないという徹底した理論の基に調理されている。しかし、「full liquiddiet」になると、いっぺんに脂肪も上がり、カロリーも上がるという特徴をもっている。日本では「重湯」の段階で、ミルクやアイスクリームを多用しているし、そのカロリーの約20%は脂肪である。この点は第1段階の食事に関して、日本と米国の全く違うところである。
消化器術後は調べた限りでは、どの国もstep upのシステムを持っていることが明らかとなった。日本においては6(or5)ステップである。米国、中国、タイ、トルコでは4ステップであり、韓国、バングラディシュでは3ステップとなっている。台湾では術後の日数により出す食事に決まりがあるものの、基本的には4-5ステップと考えられる。このことから日本は術後食のステップ数が最も多い国と考えられる。それは、非常に繊細な術後食のシステムともとれるが、そこまで細かく分ける必要もないという考え方もある。実際日本においても、我々の病院の様に6ステップの七分粥を不必要として、5ステップにしている病院も見られるようになってきた。胃切除後のステップアップの速度に関しては、胃癌の多い東アジアの国々ではある程度スタンダードができているが、その他の国々では症例数も少なく、個々の症例ごとに食事のオーダーがされているようである。韓国においては、日本より非常に速く全粥と同等の段階にまであがる。一方、中国、台湾においては、3日から1週間くらいで全粥程度の食事にあがる。日本では5日から10日程度で全粥に上がるのが一般的であり、中国、台湾は日本よりやや速い程度である。いずれにせよ、日本の術後食は、世界の中でもステップアップの速度も遅いといえよう。日本の術後食は長い間かけて、日本人の体質、体格、食欲などにあったようになっていると考えられる。このシステムをむやみに変えるのは問題ではあるが、他の国の状況や、入院期間短縮といった医療経済上の課題も考えた上で、食事のステップの数や食事をあげてゆくスピードを考え直し、試験的に施行し、その結果を出してみる必要があると考えられる。
最後に
今回の研究に対して助成を頂いた「ファイザーヘルスリサーチ振興財団」に深く感謝いたします。また今回の研究に協力をしてくださった諸外国の病院の医師、栄養士の方々に感謝したします。
参考文献
- Kathleen M. Jeffery, et al ; The clear liquid diet is no longer a necessity in the routine postoperative management of surgical patients. The American Surgeon 62 : 168 - 170, 1996
- Justin Choi, et al ; Safe and effective early postoperative feeding and hospital discharge after open colon resection. The American Surgeon 62 : 853-856, 1996
- 李盛雨:韓国料理文化史 P122-123.平凡社.東京.1999
- 中尾佐助:料理の起源 P1-43.日本放送出版協会.東京.1997
- 石毛直道ほか:食の文化第1巻,人類の食文化 P408-431.味の素食の文化センター.東京.1998
平成9年度 国際共同研究
カリフォルニア州ロサンジェルス郡における
アジア系HIV感染者の受診行動と
社会サービスシステムのあり方に関する研究
Health care seeking behaviors and medical /
social system among Asian people with HIV in Los Angeles.
代表研究者
財団法人結核予防会結核研究所 研修部長
山下 武子
- 研究期間
- 1997年10月1日~1998年9月30日
- 共同研究者
- University of Southern California, Medical Center Room 6442, Assistant Professor ブレンダ・アーリン・ジョーンズ
University of Southern California, Medical Center Room 316, HIV/TB Research Nurse 太田屋 道子
本研究は、カリフォルニア州Los Angeles郡におけるアジア系HIV感染者と日本のHIV感染者について受診行動および社会的サポートシステムのあり方に関する、南カリフォルニア大学(University of Southern California:以下USC)との共同研究である。
本研究は、恐らく日米共同で実施されるHIV感染者の社会調査としてははじめて、米国の学内研究倫理委員会(Institutional Review Board:以下IRB)の審査と承認を得て行われた。その研究計画書の作成から承認までに予定外に多くの時間を要したが、公式の手続きを踏んだことにより、本研究に対するUSCおよびその関連施設の理解と協力が深まり、未公開のデータに容易にアクセスできるなどその後の調査研究が行いやすくなった。
調査はUSCと共同で開発した調査票(基本的属性、感染経路、受診行動、健康状態、心理・社会的サポート等)をもとに、USC側では日系HIV感染者に対する面接調査を行い、日本側では翻訳した調査用紙を、主治医を介して、最近HIV感染が確認された者に対し、自記式調査法で行った。
プロテアーゼ阻害剤を中心とする三剤併用療法の普及ならびに、日和見感染症の予防・治療が確立されつつある今日ではCD4の値が下がっていても身体症状が安定しており、精神的ストレスも比較的少なく、HIV感染者のニーズが変化していることが示唆された。
HIV抗体検査の受検および医療機関への受診については、何らかの症状が出現してから受信している事例が目立ち、三剤併用療法の効果的な導入および予後のQOLの観点から、早期受診の啓発教育の在り方を再検討する必要があると思われる。
また、わが国のHIV感染者の援助者は、ほとんど主治医と家族のみであり、米国のように地域のNGO組織や自助組織からの多様な援助を受けていない。感染者本人だけでなく家族の精神的ストレスに対するサポート、NGO組織や自助組織の育成、地域の人材育成等が益々必要である。
平成10年度 国際共同研究
発展途上国における
保健医療支出の社会経済効果に関する研究
A Study on Social Economic Effects of Health Medical Expenditures in Developing Countries
代表研究者
埼玉大学経済学部 教授
貝山 道博
- 研究期間
- 1998年10月1日~1999年9月30日
- 共同研究者
- タイ王立チュラーロンコーン大学経済学部 準教授 キティ・リムスクル
埼玉大学経済学部 助教授 長島 正治
問題意識
本研究では、発展途上国における貧困問題の解決のためには、とりわけ保健医療問題の解決が必要であるという認識に立ち、東南アジアのタイを例にとり、保健医療関係支出に関する次の2つの問題点について分析を行った。
- 保健医療関係支出を被説明変数したとき、タイの諸マクロ経済変数はどれだけ説明変数と成り得るか、そしてその説明力の程度が、日本やアメリカ、イギリスなどのOECD諸国におけるそれら説明力と乖離しているかどうか。
- 保健医療支出の増加と乳児死亡率との相関、および成人の平均寿命との相関関係が、日本やアメリカ、イギリスなどのOECD諸国における相関の度合いと同様のものかどうか。
分析方法
タイの労働福祉省社会福祉局および王立チュラーロンコーン大学Health Economics Centerから収集したタイにおける医療支出関連のデータを用いて計量経済学的手法により各変数間の時系列とクロスセクションのパラメータ推計をそれぞれ行い、それらパラメータをOECD諸国についての過去の研究結果と比較することによって解析を行った。
結果
本研究によって得られた結果は次の2点に要約される:
- タイは1990年に長年の懸案であった社会保険法を施行し、医療保険、遺族保険、退職保険及び失業保険等の社会保険制度を有する国である。しかしながら、各階層及び職種によって異なる各種医療保険システムを合計しても、それらは総人口の67.8%をカバーするにすぎない。近年のタイにおけ10る保険医療支出の増加は、説明変数をマクロ経済変数で考えた場合、所得効果によって説明される割合が大きい。すなわち、主としてタイのマクロ所得(GDP)増加によってそのほとんどが説明されうる。このことは、OECD諸国に関する同様の研究結果と同じであると言える。しかしながら、医療サービスの価格の変化による需要の価格弾力性が他の先進諸国と比べると相対的に大きいことが明らかになった。
また一般的に、女子の労働参加率の上昇は家計所得の増加を高め、結果として医療サービスの需要を増加させると考えられるが、タイにおいてはその効果はあまり顕著に現れないことが分析によって明らかになった。 - Hitiris and Posnett(1992)、およびGrubaugh and Santerre(1994)によって、保健医療支出の増加は平均寿命の上昇(死亡率の低下)と乳児死亡率の低下をもたらすことが実証されているが、タイについての実証分析からも同様の結果が得られた。しかしながら、タイ国内での地方(農村部)と都市部(バンコック周辺)での死亡率格差と保健医療サービスの需要の格差から、1国全体としての一律な結果にはその信憑性が疑問視される。
以上の分析を通じて、途上国と先進国の間の国際比較を行う際の為替レートのデータについてどのような指標を用いるべきかという問題と、1国全体としての分析では、途上国内の地域格差が分析に明確な形で現れてこないという問題点が、今後の課題として残された。
平成10年度 国際共同研究
米国におけるマネジドケアの進展と薬剤医療費への影響
The development of Managed Care System and its impact on pharmaceutical expenses in the U.S.
代表研究者
慶應義塾大学 政策・メディア大学院 助教授
印南 一路
- 研究期間
- 1998年9月1日~
- 共同研究者
- 慶應義塾大学 政策・メディア大学院 博士課程在籍 掘 真奈美
要旨
医療の質を維持しつつ効率化を図ることは、先進国共通の政策目標である。米国では、病院・医師などの医療提供者に対する経済的インセンティブを、過剰医療から適正ないし過小医療へと転換し、診療内容と財政リスクを総合的に管理するマネジドケアが急速に普及した。
マネジドケアに関する研究は、米国のみならず日本でも数多くある。しかし、これらは制度の記述や概念整理に終わっているものが多く、学術的な観点から、マネジドケアの問題点を整理し、指摘したものは意外に少ない。また、マネジドケアの医薬品産業における展開として、PBM(Pharmacy Benefit Management)と呼ばれる新しい処方薬剤の審査・支払い方法が、米国では急速に普及しつつあるが、日本ではPBMは未だ注目されておらず、また論じたものは極めて少ない。さらに、マネジドケアが薬剤医療費へどのような影響を与えるかについては、実証研究が希少である。
本研究では、第一に、マネジドケアをキーワードとする英語文献数3600強から約100の重要文献を抽出し、マネジドケアと医師・病院・患者の行動パターンの変化など、マネジドケアの問題点を学術的に精査した。第二に、種々のデータソースおよび2箇所の訪問インタビュー調査を通じ、近時米国で急速に普及し始めているPBMの実体を把握した。最後に、これまであまり研究が行われていない薬剤医療費へのマネジドケア(PBM)の影響を学術的に精査した。
Ⅰ 研究目的
経済低成長下での医療費増加に伴い、医療の質を確保しつつ医療の効率化を図るという政策目的を達成する方策の一つとして、診療報酬支払制度における定額制が、我が国でも導入されようとしている。
米国では同様の問題に対処する一方法として、1970年代からHMOやPPO等のいわゆるマネジドケアの浸透が図られてきた。また、1980年代中頃には、入院医療費に対する支払制度として診断群に基づく定額制(DRG-PPS)が、続いて診療費に対する支払制度として価格相対表(RBRVS)が導入された。これらの方式に共通する性格は、きめ細かい医療費適正化方策を保険支払い制度にビルトインするとともに、経済的インセンティブを過剰医療から適正ないし過小医療へと転換することにある。病院・医師などの医療提供者の診療行動を変化させるこれらの方式は、医療に市場原理を持ち込む制度として、世界的に注目されている。
Dialogue DBによる初期検索では、マネジドケアをキーワードとする英語文献数は3000を優に超える。これは、マネジドケアが医療政策における重要課題の一つであるためである。ただし、これらの多くは雑誌記事等であって、学術文献数はずっと少なく、また医療費への影響を実証した研究は極めて少ない。これはマネジドケアの医療費への影響を他の影響要因から区別することが、重回帰分析などの統計的手法を用いても非常に難しいためである。
マネジドケアに関する研究は米国のみならず日本でも数多くある。日本においては、総合的データベースが未整備のため、マネジドケアに関する全研究を把握するのは困難であるが、概ね制度の記述や概念整理に終わっているといってよい。学術的な観点から、マネジドケアの問題点を指摘したものは意外に少ない。
また、医薬品産業の立場から見た場合、マネジドケアの影響は、近時米国で急速に普及し始めているPBM(Pharmacy Benefit Management)と呼ばれる新しい処方薬剤の審査・支払い方法の問題が中心であると思われるが、日本ではは未だ注目されておらず、このPBMについて論じたものは極めて少ない。
さらに、マネジドケアが薬剤医療費へどのような影響を与えるかについては、概念的な議論が多く、実証的に論じた研究は意外に少ない。医療費に与えるマネジドケアの影響については、医療の質への影響とセットにして論じる必要があるが、医療の質の定義が難しいため、これらの研究も少ない。
本研究は、第一に、医療保険市場の中心的存在であり、今なお急速に変化しつつある米国のマネジドケアの実態を学術的に精査し、第二に、近時米国で急速に普及し始めているPBMの実態を把握し、合わせて、これまであまり研究が行われていない薬剤医療費へのマネジドケア(PBM)の影響を検討する。
以下
Ⅱ マネジドケアに関するレビュー
- レビューの方法
- マネジドケアの概略
- マネジドケアと医師の行動
- マネジドケアと病院
- マネジドケアと患者の選択行動
Ⅲ マネジドケアに医薬品産業
- PBMの概況
- PBM業務の概念整理
- PBMの業務内容
- マネジドケアと薬剤医療費
は紙面の都合で省略いたします。
フルレポートをご希望の方は当財団事務局までご連絡下さい。
また、本研究は、平成12年11月開催の第7回ヘルスリサーチフォーラムで発表されました。
研究助成成果報告一覧
