平成9、10年
vol.24
平成10年度 国際共同研究
結核治療における臨床医及び行政担当者の
対応と認識の日米評価
代表研究者
(財)結核予防会 第一健康相談所・読影センター長
増山 英則
- 研究期間
- 1998年10月1日~1999年10月31日
- 共同研究者
- 国立療養所 千葉東病院・厚生技官呼吸器科医長 佐々木 結花
研究目的
日本の結核対策は疾病対策モデルと称され、見事な成果を挙げてきたが、結核蔓延状況は欧米に較べるとなお30~40年の遅れをみている。日本では、結核治療は長く療養所を中心として実施されてきたが、他の先進国に比し、入院率は高く入院期間は著しく長い。最近、厚生省より「結核緊急事態宣言」が出され、また結核の院内感染が多発するなど新たな局面を迎えている。日本の結核対策は、日本の研究結果に基づき、独自の方策をとっているものも少なくないが、この基礎にあるものは、日本と欧米諸国との間で、結核の感染性、患者への対応、社会防衛などについて考え方に大きな差異があり、これが政策にも反映しているためと考えられる。そこで今回、日米の結核対策を比較し、感染性患者への対処法、入院及び外来治療によるCost-effectivenessの解析、患者・家族への対応法を調査、その意識の違いを明らかにし、結核対策にどう反映しているかを浮き彫りにし、日本での結核対策上の改善点を見出すために当研究を行った。また今後の発展途上国での結核対策にも役立てる事を意図するとともに、感染症に対する日米の意識の相違、対策についての相違なども明らかにするよう努めた。
方法と対象
「1. 米国での調査」1998年10月からニューヨーク市結核対策局長のDr. P. I. Fujiwara, CDCのDr. K. G. Castro,米国National TB Controllers Association (NTCA)会長のMr. W. Pageの協力、了解を得て、結核対策に関するquestionnaireを全米各州及び大都市(ニューヨーク、シカゴ、サンフランシスコ等)の結核対策の最高責任者であるDirector, TB Controller(Administrator)に送付し、回収分析した。ついで、その分析結果に基き、1999 年2 月24 日から27日まで、シカゴで開催された4th Annual Meeting IUATLD North American RegionとNTCA Meetingに、NTCAの許可のもと日本人として初めて出席、個別にDirector, TB Controllerにインタビュー、questionnaireの補足をした。対象は上述の如く、各州及び大都市のDirector, TB Controller 16名である(内、questionnaireとインタビュー13名、インタビューのみ2名、questionnaireのみ1名)。回答者の職種は医師9名、Registered Nurse 3名、Epidemiologist その他行政職4名。Questionnaire の内容は、(1)塗抹陽性患者への治療対応(塗抹陽性例の入院率、入院期間、処方内容、退院の条件、DOTの普及状況、治療コスト、塗抹陽性例の入院治療の是非、コホート解析結果)、(2)結核対策の法・行政的対応(強制入院や隔離の有無、法的根拠、公衆衛生学的脅威の概念とその実数、治療へのnon-compliantの対処法、行政的施策の内容)、(3)入院適応と施設対応(病室の設備、慢性持続排菌例への対応)である。
「2. 国内での調査」1998年10月より、共同研究者である国立療養所千葉東病院佐々木呼吸器科医長の協力のもと、全国の国立療養所及び結核専門病院に米国と同一内容のものを翻訳したquestionnaireを配布した。54施設より回答を得、分析した。回答者の職種は医師54名で、各々の病院での結核治療の責任者である。
統計処理はMann-Whitney検定で施行した。
尚、日米間で回答者の職種に差がみられるが(1)米国においては、各州及び大都市とも、各々のDirectorが管轄地域の結核対策を一律に決定しており、その地域では医師間の治療上の差があまり認められない事、(2)日本においては、各医療機関で治療方法や入院適応・期間に差がみられるので、回答者は各医療機関の実際上の結核対策責任者に限定した事より、日米間の職種によるバイアスは充分除去できたと判断した。
結果
「1. 塗抹陽性患者への治療対応」塗抹陽性患者の入院率は日本では中央値100%(n=50)、米国では59%(n=7)(P<0.01)。同患者の在院日数は日本では中央値150日、米国では10日(P<0.01)。初回治療の初期強化期の治療レジメンは、日本ではHRE(or S)Z 96.3%、HRE(or S)3.7%、米国ではHRE(or S)Z 100 %。退院の基準は(複数回答可とした)、日本では3 連痰で塗抹陰性確認後が51.9%、次いで治療のコンプライアンスを確認しての退院が48.1%、副作用が出現しない事を確認しての退院が44.4%、各々の施設独自の基準が42.6%で、3連痰で塗抹陰性確認後が半分以上の施設でなされてはいるが、日本全国として退院基準は統一されていない。一方米国では有効回答11地域中、3連痰で塗抹陰性確認後の退院が72.7%、次いで治療開始後2週間で退院が36.4%、治療のコンプライアンスを確認後退院が36.4%であった。日本に20.4%みられた胸部レ線の改善を待って退院は0%であり、全体として退院の基準は統一されていた。退院後universal DOTの適応については、日本では0%、米国では76.9%で残りの23.1%ではselective DOTを採用していた。日本での退院後管理は、自己管理が96.2%、自己+家族管理が3.8%。日本での退院後処方や治療期間は各施設一様でなかった。塗抹陽性患者を入院させない理由としては、日本では54施設中15施設(27.8%)で回答があり、患者拒否11施設(73.3%)、合併疾患2施設(13.3%)、社会背景2施設であった。一方米国では、13地域のうち10地域(76.9%)で医学的に重症やnon-compliant以外は入院必要なし、患者が入院費を払いきれない1地域(7.7%)であった。治療成績のコホート解析については、日本では11.4%のみで行われ治療成功率は70~100%であった。米国では13地域全てで実施され、治療成功率は平均93.8%(79~100%)であった(日米間で有意差なし)。以上の治療対策全体への満足度は、日本では70.4%で「入院短期化の希望」、「施設整備への不満」、「合併症管理不能」、「退院後管理不十分」の不満が示された。米国では13 地域全てが一応満足しており、100%であった。薬品代、入院費用など治療にかかる全てのコストは、日本では一人当り平均278万8824円。米国では一人当り平均17,800US$(14,000~28,000US$)であった(1US$= 110円)。米国の平均値は、インフラのコスト、薬品代、入院費、接触者検診、予防内服とサーベイランス全費用をいれての全米の推定値である。しかし、シカゴの報告1)では一人当り68,578US$のデータもある。因みに、INHの6ヶ月のコストは13US$、ワイオミングでは一日700US$の入院コストがかかり、ミシシッピーでは1998年54caseで平均一人16,067US$(400~174,577US$)かかり、174,577US$かかったcaseはMDR-TBで126日間にわたり3回入院、一日入院コストとして895US$となっていた。
「2. 結核対策の法・行政的対応」公衆衛生学的に脅威となる結核患者への強制入院・隔離(住居等)の制度は、米国では調査した13地域全てにあり、民法規定だが州法として100%確立されている2)。日本においては全国一律の結核予防法(民法)で規定されているが、強制入院・隔離に力を入れている施設割合は88.9%(回答45 施設中、40施設)であった。公衆衛生学的脅威と考える条件は、フロリダ州衛生局の考えに拠ると活動性肺結核患者で①服薬拒否、②医師の治療指示に不服従、③治療を忠実に実行しない、④公衆衛生的配慮なし、の4項目であるが、今回調査の米国地域では①100%、②92.3%、③69.2%、④76.9%で概ね統一した捉え方をしている。一方、日本では①48.9%、②24.4%、③33.3%、④44.4%で日本の方が米国よりその捉え方が甘く、一様でなかった。方策として採られる制度内容も、米国は報告システムより始まり、incentive、直接訪問、隔離(住居や入院)、法的罰則まで一貫した流れをもっているが、日本は入院隔離を主としている。現状の結核対策への満足度は、日本51.5%(回答45施設中23施設)、米国84.6%(回答13地域中11地域)であった。日本での不満の理由は施設整備、自己退院患者の扱い、マンパワー不足、医師意識不足、感染防御不足等であり、米国では法的手続きの煩雑さ、弁護士との交渉、移住者の問題であった。
「3. 入院適応と入院施設対応」塗抹陽性患者への個室の用意は、日本では54 施設中22施設(40.7%)にあり、一方米国では13地域全て(100%)であった。また、慢性持続排菌患者への入院対応は日本51施設中43施設(84.3%)であるのに対して、米国13地域では5地域(38.5%)であり、その内4地域はサン・フランシスコ、ロサンゼルス、シカゴの大都市とフロリダ州であった。米国の他の地域では住居等への隔離で対処していた。上記症例の入院先としては、日本では結核病院結核ベッド、米国では一般病院結核ベッドが最も多かった(日本83.7%、米国60%)。多剤耐性結核やHIV合併症例用の入院特殊施設は、日本では各々回答51施設中13施設(25.5%)、25施設(49.0%)であり、一方米国では回答13地域中フロリダ州のみであった(7.7%)。
「4. 回答者について」今回 回答者間で、結核対策経験年数の点で日米間に有意差は認められなかった。
考察
日米の結核対策を比較してみると、表現的には奇異に聞こえるかもしれないがアメリカの結核対策は“日本的”であり、日本のそれは“アメリカ的”である。米国の結核対策は塗抹陽性患者の処理を公衆衛生上の最優先課題として捉え、NTCAの組織を活用し、各々地域特性はあるが全米を一つの方向へと導いている。この際、対策上はsmall“State”program, large “City”programに二極分化している。罹患率が極端に低い中西部の州ではeradication の段階に近づいており、DOPTを中心とした感染予防の対策がとられている。一方大都市(ニューヨーク、シカゴ等)では、罹患率が依然高く治療成績向上の為DOT を中心とした患者治療対策が最優先で進められている。米国といえば、各州で法律も異なり、医療面でも例えば各州での尊厳死の扱い方も異なっている。これを“アメリカ的”と表現したわけだが、こと結核対策については、良い表現ではないが合理的、統一的に全米一律の対策を推し進めている。対策の実施に際しては曖昧な点はひとつもない。例えば、公衆衛生学的脅威の前では個人の権利は制限してよいとさえ考えている。以下具体的に米国の対策の特徴を述べる。①new smear-positive TB やMDR-TBは全てDOTが適応される(selective DOT)。Universal DOTの州もある。②結核患者の入院適応は結核の排菌状態ではなく、肺炎合併その他病状的に重症、HIV陽性やhomeless等の場合のみである。退院は塗抹連続三回陰性であれば、周囲への感染危険はないと判断し可能となる。これにより患者自体長期入院による失職の危険も回避されている。③結核治療に対する個人負担は全くない。Medicare、Medicaidで不足の分は他のhealth insuranceを使用し、それでも不足の場合は各州が負担し、個人負担は零となっている。④公衆衛生学的脅威となる患者(治療、検査を拒否したり、治療を中断する例)に対しては、以下の手順で対応している。A.incentive(homelessに宿泊所や食事を与える。) B.counseling、outreaching C.health officer 又は裁判所によるlegal order(民法)(home isolation、detention in hospital or shelter) D.detention in jail(民法)、ただし、全体としてB. までですむ事が多い3)。民法規定により、全体の利益の為個人の自由が制限される事が可能となっている(しかしその中でも最大限個人の権利が守られているが)。⑤慢性持続排菌者は原則としてhome isolation。もし未感染の家族がいる時は、家族に対しツ反の結果で化学予防とし、感染防止の必要期間だけ持続排菌者は入院となる。
一方、日本の結核対策は形式上、“日本的”に全国一律の結核予防法で規定されている。しかし実際上は①罹患率などの疫学指標に地域格差があり、一律の対策では限界がある。②結核治療が医師薬剤選択裁量権により結核医療基準以外の不適切な処方でなされる事がある。③公衆衛生上必要として、入院期間が極端に長く、個人の生活、仕事に制限を加える事が多い。④結核予防法では、肝機能検査等副作用のチェックの費用は範囲外で結局保険等を使用し患者に個人負担が残る。⑤命入の結核予防法35条は強制力がない民法規定の為患者に入院を拒否される事がある。医師の薬剤選択が個人裁量でなされている事が目立った。
こう述べていると、日本の結核対策がすべて米国より劣るように思われるかもしれないが日本なりの良い点や考え方にも着目したい。先ず長期入院については①日本の医師は塗抹陰性三回連続しても、100%感染を否定できないと考えている。100%確実に安全を確かめる方法として培養があり、その確認を待つので入院期間が長くなっている。しかし、この先MGIT法等の導入により入院が短期化していく可能性が充分ある。②PZAの使用では、副作用の出現が多く、また日本としては60歳以上の高齢者の患者も多いので、充分副作用を監視しながら治療する必要がある為、入院期間が長くなる事もある。次いで、慢性持続排菌者の扱いだが、例えばカタラーゼ陰性で高度INH耐性菌持続排菌者の排出菌の約80%は毒力が弱く、本人や周囲に免疫状態の悪化がなければ、入院せず日常生活が可能と考えられ、一方そうでない持続排菌者は公衆衛生上の脅威として入院が必要と考えられる(但し、患者個人々々では何れかの判断は難しいが)。米国のように一括してMDR-TBとして扱わないほうが患者の権利や行動の自由に配慮できると考えられる。
さて、ここで今回調査結果より、Cost-effectivenessの面で検討してみる。日本の大都市でDOTによる塗抹陽性初回治療の場合の費用を試算してみると、以下の如くとなる。先ず、治療当初米国にならい10.2日入院、一日入院コスト700US$として、7140US$。喀痰検査が一回39US$で十回施行として390US$、胸部写真を二回(一回コスト32US$)として64US$、副作用チェックのため血算と肝機能検査等(一回コスト24US$)を三回として72US$、DOTのfacilityとadministration costが患者一人当り518US$4)。Outreach visitを六ヶ月の治療期間に50回(一回コスト26US$)として1300US$、clinic visitが治療期間中二回(一回コスト50US$)として100US$。薬剤費として一日当りのコストは、INH 0.04US$、RFP 0.645US$、EB 3.06US$、PZA 2.22US$、前三者は180日分、PZAは60日分として計806.8US$1)。以上の総計として10,390.8US$。1US$=110円として、114万2988円となる。これを日本での平均治療コスト278万8824円と比較すると、41%になり、コストが現在の半分以下になる。Fryattは、治療期間二ヶ月間入院し、その後外来治療成功した時のコストを1とすると、当初より外来治療で成功した場合のコスト比が0.49になると報告している5)が、それとほぼ一致するデータであり日本でも上記方策は、施行可能と考えられる。
最近米国全体の結核治療完了率、完了期間の報告がCDCよりだされた6)。両指標とも日本の成績と大差なかった。また今回調査のなかでCDCが治療成功率を計算する際に死亡者や転出者を算出より除外している事も判明した。唯一カリフォルニア州でのコホート解析の“真”の治療成功率を得たが、その値は78%であった。この値は日本全国のコホート解析の治療成功率平均と概ね同じ値であった。米国の場合、先進的に対策が成功しているニューヨーク等の情報が目立ち、あたかも全米が全てそうであるかのように錯覚するが、実際には全体としては米国も日本と同程度の治療成績である。米国での結核治療のターゲットは①AIDS、②homeless、③immigrant、④drug abuserで、DOTが特に有効な対象が多いが、高齢者の発病が多い日本に、米国のDOT対策をそのまま持ってきても日本の結核対策にあてはまらない。曖昧に一般的に対策を実施するのではなく、米国の様に重点を決めて対策を実行する事が肝要である。
結語
本調査による、今後日本に役立つ方策としては、以下の如くである。
- ①
- 地域特性を見極めてpolicy makingをする7)(例えば、大都市に限定してDOTの完全施行)。
- ②
- 臨床医、行政側の結核、特に塗抹陽性例への認識を正す必要がある(例えば、三回連続塗抹陰性なら、外来治療に移行)。
- ③
- 結核治療上の患者自己負担をなくす(日本では副作用チェックの肝機能検査等の自己負担分が残存している)。
- ④
- DOT を導入する時は、strategy としてinitial registration よりコホート解析まで全てを徹底する(直接監視下服薬のみではDOTSではない)。
- ⑤
- インフラ・ストラクチャーの充実(患者のシェルター、ニューヨークにみられるoutreach workerの整備、マニュアル作成充実8))。
- ⑥
- 公衆衛生学的脅威に対し、少なくとも自宅隔離程度の強制的措置の導入が必要(米国で民法上で施行可能になっている。)。
- ⑦
- ワーク・フォースの充実(medical officerやhealth workerの育成と研修体制)。
- ⑧
- 最後にpolicy making とそれを継続し、成功させようとするwill が一番必要(overall からeach,regionalへ、generalからspecificへ)。
参考文献
- Wurtz, R., White, W. D. :The cost of tuberculosis:utilization and estimated charges for the diagnosis and treatment of tuberculosis in a public health system. Int. J . Tuberc. Lung Dis.; 3 (5):382-387, 1999.
- Gostin, L. O. :Controlling the resurgent tuberculosis epidemic. A 50-State survey of TB Statutes and proposals for reform. J. A. M. A.; 269 (2): 255-261, 1993.
- Gasner, M. R., Maw, K. L., Feldman, G. E., Fujiwara, P. I., Frieden, T. R.:The use of legal action in New York City to ensure treatment of tuberculosis. N. E. J. M.:340 (5):359-366, 1999.
- Moore, R. D., Chaulk, C. P., Griffiths, R., Cavalcante, S., Caisson, R. E.: Cost-effectiveness of directly observed versus self-administered therapy for tuberculosis. Am. J. Respir. Crit. Care Med .; 154:1013-1019, 1996.
- Fryatt, R. J.:Review of published cost-effectiveness studies on tuberculosis treatment programmes. Int. J. Tuberc. Lung Dis.; 1 (2):101-109-, 1997.
- Bloch, A. B., Cauthen, G. M., Simon, P. M., Kelly, G. D., Dansbury, K.G., Castro, K.G. :Completion of tuberculosis therapy for patients reported in the United States in 1993. Int. J. Tuberc. Lung Dis.; 3 (4) ; 273-280, 1999.
- U. S. Department of Health&Human Services, C. D. C.:Tuberculosis elimination revisited:obstacles, opportunities, and a renewed commitment. M. M. W. R.; 48:RR-9, 1999.
- Bureau of Tuberculosis Control, New York City Department of Health :Clinical policies and Protocols ; 2nd Edition, 1997.
平成10年度 中期派遣
早期粘膜内胃ガンおよび大腸悪性ポリープ患者に対する
内視鏡的粘膜切除術に関する生活の質(QOL)を含めた
医療技術評価
派遣者
京都大学大学院
青木 則明
- 派遣期間
- 1998年10月1日~1999年6月30日
(滞在期間を延長して1999年11月1日現在も滞在中)
実施概要
ベイラー医科大学医療情報技術部門においてJ. Robert Beck教授の下、早期粘膜内胃ガンおよび大腸悪性ポリープ患者に対する内視鏡的粘膜切除術の医療技術評価を生活の質(QOL)の評価を組みいれた決断分析で評価し、現状の問題点と今後の課題を明らかにした。
[早期胃ガンの内視鏡的粘膜切除術に関する決断分析]
〈研究者〉青木 則明、梶山 徹、J Robert Beck、福井 次矢
目的
早期胃ガンの内視鏡的粘膜切除術(EMR)に関する結果を決断分析的手法を用いて評価した。
方法
5年間のマルコフモデルを用いてEMRと経過観察の二つのストラテジーに関する決断分析モデルを作製した。アウトカムの評価として質で調整した生存月数(QALMs)を用いた。確率データは文献から収集しメタアナリシスを用いて平均値と信頼区間を算出した。効用値は複数のエキスパートパネルから求めた。全ての確率データ及び効用値に対し、感受性分析を行い、決断に寄与する因子を明らかにした。さらにモンテカルロシミュレーションによる確率論的な感受性分析を行い医療上の不確実性を評価した。
結果
50歳男性に対する基本分析ではQALMsはEMRが47.780、経過観察が47.549であった。感受性分析の結果、決断に最も寄与する因子は潜在的なリンパ節転移の有無で、2.9%以下であればEMRが好ましかった。10,000回のサンプリングによるモンテカルロシミュレーションの結果、EMRが93.3%の確率で優位であった。隆起型m癌、陥凹型m癌、非分化型m癌、sm癌に対するモンテカルロシミュレーションではそれぞれ、100%、86%、1%、0%の確率でEMRの優位性が認められた。
結論
意志決定は潜在的なリンパ節転移に大きく左右される。サイズ、潰瘍の有無、肉眼的・組織学的分類による潜在的なリンパ節転移の正確な推定を行うことで、よりよい意志決定が行われる可能性が示唆され、今後このような臨床研究が望まれる。
[大腸癌に対する内視鏡的粘膜切除術後のsm侵潤患者に対する追加切除に関する決断分析]
〈研究者〉永田 志津子、青木 則明、梶山 徹、J Robert Beck、福井 次矢
目的
大腸癌に対する内視鏡的粘膜切除術後のsm浸潤患者に対する追加切除に関する決断分析を行った。
方法
マルコフモデルを用いて追加切除(AS)と経過観察の二つのストラテジーに関する決断分析モデルを作製した。アウトカムの評価として質で調整した生存月数(QALMs)を用いた。確率データは文献から収集しメタアナリシスを用いて統合した。効用値はエキスパートパネルから求めた。全ての確率値と効用値は感受性分析によって評価した。さらにモンテカルロシミュレーションによる確率論的な感受性分析を行い医療上の不確実性を評価した。
結果
50歳男性に対する基本分析ではQALMsはASが88.5、経過観察が87.3であった。感受性分析の結果、潜在的なリンパ節の転移の有無、追加切除術の死亡率、リンパ節転移後の死亡率が決断に強く寄与する因子で、潜在的なリンパ節転移率が3.2%以下で有れば経過観察の方が好ましいという結果であった。10,000回のサンプリングによるモンテカルロシミュレーションの結果は96.4%の確率でASが優位であった。また、浸潤がsm1のみに限局していれば46.2%の確率で、sm2以上であれば99.5%でASが優位であった。
結論
意志決定は潜在的なリンパ節転移に大きく左右されるため、今後、層別化した臨床研究が望まれる。
研究助成成果報告一覧
