ライブラリー

第 23 回

温故知新 ー助成研究者は今ー

「財団助成研究・・・その後」

第19回 平成22年度(2010年度)国際共同研究助成

国立がん研究センター中央病院 臨床研究支援部門 研究企画推進部 部長

中村 健一

がん領域の医薬品・医療機器開発の領域では、今も昔も企業主導、アカデミア主導を問わず、米国を中心とした治療開発が進んでいる。筆者は国立がん研究センターが直接支援するがん多施設共同試験グループであるJCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)の運営事務局で4年あまり臨床研究支援業務に携わった時点で、最新の米国における多施設共同試験の実施体制を詳細に調査する必要性に駆られ、平成22年度国際共同研究助成金「多施設共同臨床試験グループの中央支援機構に関する日米比較研究」によって、約3か月間米国の臨床試験グループやfunding agencyを訪問する機会を得た。この米国訪問では、毎日のように米国のトップ施設の様々な関係者にインタビューを行い、直接最新の臨床試験実施体制、規制要件、ファンディングメカニズムを学ぶことができた。筆者が訪米した当時はがんゲノム医療の幕開けとも言うべきタイミングであり、全米のがん臨床試験グループの再編や、早期開発パイプラインの整備、全米のバイオバンクの統合などが、NCINational Cancer Institute)主導で圧倒的なスピードによって進められていた。関係者へのインタビューの予習・復習を毎日のように行い、大量のレポートを毎週のように日本に送っていたことを思い出す。

その後、これらの情報をもとに、JCOGでも段階的に臨床試験進捗マネジメントシステムを導入し、さらにはバイオバンクの立ち上げや試料解析研究の活性化を図るなど、少しでも米国に追いつけるよう様々な改革を行ってきた。また、日本のがん臨床試験グループのネットワークであるJCTNJapanese Cancer Trial Network)を立ち上げ、臨床試験グループの試験実施体制を標準化し、臨床試験コンセプトの情報共有ウェブサイトを構築するなど、後期治療開発を推進する活動を展開してきたことには、ファイザーヘルスリサーチ振興財団の助成金の成果が多いに活かされている。

さらに、これらの経験を通じて培ったネットワークをもとにJCOGと米国NCCTGの国際共同試験を実施したほか、その後も欧州最大の臨床試験グループであるEORTCとの国際共同試験や、アジア4か国の国際共同医師主導治験を主導するなど、米国のみならず多国籍でのアカデミア主導国際共同試験を現在も支援・推進している。国立がん研究センター中央病院は平成28年度からAMED国際共同臨床試験実施推進拠点に選定されており、特にアジアを中心とした国際共同試験の中核的施設となるよう研究支援体制の整備やネットワークの構築を進めているが、それらの活動の個人的な出発的になっているのは、このファイザーヘルスリサーチ振興財団の助成による米国訪問であった。

思えばもともと外科医であった筆者が外科医を辞めて臨床試験支援の世界で生きる決心を固めたのも、この米国滞在であり、このような人生のキャリアチェンジの契機になるような機会を与えていただいたファイザーヘルスリサーチ振興財団にあらためて深く感謝申し上げたい。若手研究者にはこのような多種多様なclinical questionに対応する懐の深い助成制度はめったにないことを強調しつつ、是非この研究助成を活用して世界に羽ばたくことをお奨めしたい。

温故知新一覧