ライブラリー

第 21 回

温故知新 ー助成研究者は今ー

「財団助成研究・・・その後」

第18回 平成21年度(2009 年度)国内共同研究助成

医療法人財団 夕張希望の杜 理事長

八田 政浩

平成19年夕張市が財政破綻したことで、町で唯一入院病床(171床)を持った夕張市立総合病院は経営破綻し、医療法人財団夕張希望の杜が公設民営で19病床の夕張市立診療所と40床の介護老人保健施設夕張として運営を引き継ぐことになりました。多職種が連携して慢性疾患の予防と在宅医療に重きを置いて夕張市民の健康を守っています。

老健開設当初、入所者に多くの肺炎が発症しました。危惧を抱いた我々は医科と歯科が連携して入所者全員に当時日本ではあまり行われていなかった肺炎球菌ワクチンを接種し口腔ケアを徹底したところ、肺炎の発症はほとんど見られなくなりました。これは偶然の出来事なのか調べてみましたが、肺炎球菌ワクチン、口腔ケアそれぞれの肺炎予防効果は実証されているものの、同時に行われた場合の文献は見当たりません。どのくらいの予防効果があるのか明確な答えを知りたいと思っていたところ、運よくファイザーヘルスリサーチ振興財団から2009年度の国内共同研究に100万円も助成してくれることになり、要介護高齢者の肺炎に対して専門的口腔ケアおよび肺炎球菌ワクチン併用による肺炎予防効果の前向き比較研究を実施することができました。

この研究により肺炎球菌ワクチン接種と口腔ケアの併用は相乗効果があり、単に肺炎発症者数が減少するだけでなく、肺炎死亡者数も減少することが実証されました(http://ci.nii.ac.jp/naid/ 120005714064)。日本の高齢化率は上昇しつづけそれとともに肺炎は増加し死因の3位になっています。肺炎予防は要介護高齢者などのQOLを維持するばかりでなく、医療費削減につながります。削減できた分は他の疾病予防や介護職員の人件費などに利用でき、より一層医療や介護の現場に役立てることが出来ることでしょう。

当院老健では今も入所者全員に肺炎球菌ワクチンを接種し毎日食後の口腔ケアは徹底して行われ、最低月に1回は歯科医師の診察を受けるようにしています。また、この研究に協力していただいた特養では入居者全員ではありませんが、歯科医師、歯科衛生士による口腔ケアは継続しており、肺炎の発症は他の施設に比べ群を抜いて低く抑えられています。医科と歯科が連携して入所者さんに最後まで口から食べてもらい、自然な形で人生の終焉を迎えていただけるようかかわり続けています。

最後に、ファイザーヘルスリサーチ振興財団の国内共同研究助成していただいたことは、自分の行っている臨床に信念を持ち、やりがいを見いだすことが出来ました。また、多くの方々に幸福や生きがいを与え、より住みやすい街、社会づくりに生かされていると思います。今後も研究助成は必要とされるすべての人々の医療、介護、福祉の発展に役立ってくれることを期待します。

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