ライブラリー

第 5 回

温故知新 ー助成研究者は今ー

「財団助成研究・・・その後」

第9回 平成12年度 日本人研究者海外派遣助成
第13回 平成16年度 国際共同研究助成

国立保健医療科学院 疫学部長

今井 博久

今井博久

第13回国際共同研究の助成金によって実施された「高齢患者における不適切な薬剤処方の基準」という私たちの研究論文が日本医師会雑誌の本年四月号に掲載された。これは世界中で広く使用されている「Beers Criteria」の日本版である。当初の予想に反して、テレビ、新聞、雑誌など多くのメディアによって報道され注目を集めることとなった。こうした反響は薬剤関連の問題に対する社会的関心が相当高いことを反映していると思われる。現在、本省や関係団体あるいは製薬会社と連携し高齢者の薬剤問題の是正に向けて効果的な対策を練るために動き出したところである。これを契機に高齢者の薬剤関連のヘルスサービスリサーチ(HSR)が今後様々な形で展開されて行くことを期待したい。

上記の論文は遡って第9回日本人研究者海外派遣助成をいただき米国に留学しそのときの研究に源流がある。当時の私の研究テーマは不適切処方と疾病管理であった。毎日早朝から深夜まで研究室に籠もり研究に没頭した。
Arch Intern Med.Clinical Ther.Geriatrics & Gerontology Intl.に研究成果が掲載され、こうした研究活動が今回の「Beers Criteria」の日本版に繋がったのである。十年近い時間が経過して生まれた成果である。留学中は、これらの個別的な研究だけでなくKerr L. White先生を始めとする一流の教授陣の薫陶を受け、HSRの心髄を学ぶことができた。今日在るのは、留学中に米国流の合理的な研究の考え方、世界を相手に競争する態度、そして何よりも研究者の心構えと自信を身に着けたことにある。米国時代に交流した研究者らとは、いまだに電子メールなど通じて遣り取りし米国訪問の際には再会している。昨年はマイアミのBeers教授の自宅を訪れ四方山話に花を咲かせた。

今年も米国ワシントンDCで開催されたヘルスサービスリサーチ学会に参加し学会報告をしたが、もう彼此十年になるだろう。この学会は若い人たちを大切にしている。学会開催中に朝食会が開催されトップクラスの研究者と学部学生や大学院生が集い、将来のことや研究生活について小さな丸テーブルを囲んで談笑する。当時孤立無援だった私はそれを目にしたとき実に羨ましかった。そうした経験をしているので、人的交流を目的としたワークショップ(WS)の世話人の依頼は喜んで引き受け、第1回から連続3回ほど担当させていただいた。まったく新しい視点から作り上げたユニークなWSであり、当初の狙い通り様々な人々が交流し有形無形の成果が上がりつつある。私自身も大変勉強させられた。WSの企画運営などで財団に行き来した当時、歴代の垣東徹及び岩崎博充両理事長、佐藤忠夫前事務局長を始めとする財団の方々には何かとご支援いただき今もって心より感謝している。

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