ライブラリー

第 4 回

温故知新 ー助成研究者は今ー

「財団助成研究・・・その後」

第9回 平成12年度 国際共同研究助成
第14回 平成17年度 国際共同研究助成

名城大学薬学部 臨床経済学研究室 教授

坂巻 弘之

坂巻弘之

平成12年度に「インターネットによる患者・消費者への保健医療サービス提供に関する国際比較研究」でファイザーヘルスリサーチ振興財団から最初の研究助成をいただいた。

この研究を行った当時は、筆者は医療経済研究機構の研究部長の職にあったが、その頃、医療提供者と消費者(患者)とをつなぐ仕組みとしてのインターネットへ関心が持たれており、「e-Health」というビジネス領域も存在していた。しかしながら、調査開始前後のITバブル崩壊とあわせ、多くのe-Healthビジネスも頓挫してしまっていた。こうした中で、今後の医療ITビジネスの可能性を模索するなかで、結果的に疾病管理(disease management:DM)に焦点を当てることになった。

疾病管理は、1995年にボストンコンサルティング・グループが米国ファイザー社のマーケティング戦略のために概念を整理したものであり、その後、欧米以外も含む多くの国に普及している。国の医療制度により形態も異なるが、わが国では平成20年度から導入される「特定健診・保健指導」に疾病管理の概念が導入されている。

助成研究ではインターネットを利用した疾病管理、すなわちe-DMの可能性と普及の課題を検討し、結果は論文にまとめるとともに、平成14年の第9回ヘルスリサーチフォーラムで発表した。

発表後の質疑応答で、開原成允先生から「疾病管理ビジネスは日本では定着しない」とのご意見をいただき、それに強く反論したことを今でも感慨深く思い出す。現状を見ると、経済産業省が疾病管理企業あるいは健康支援産業の発展を後押しし、さらに特定健診・保健指導を外注できる形になったこともあって、DMビジネスは「とりあえずは」定着しているといえよう。ただし、疾病管理企業によって提供されるサービスの質の保証など、課題も残されており、当時の反論が正しかったとは今のところ結論できないのも事実である。

いずれにしても、助成をいただいたことも契機となって、その後も疾病管理に関わる様々な調査・研究に携わることになった。医療経済研究機構では、特定健診導入のきっかけになった社会保険庁委託研究政管保険データの分析にも関わった。また、平成17年度にも「薬価決定のあり方に関する国際比較研究」で助成を受けた。それと前後して平成18年に現在の職を得て、研究に加え、薬学教育、薬剤師育成も担うことになった。

2回の助成を受けたが、それぞれのテーマと現在の教育・研究との関係を述べておきたい。疾病管理については、米国では薬剤師主導での実施も一般的であり、これからの薬剤師業務の方向性として大きな可能性を有している。また、薬価に関しても、医薬品政策上の重要テーマであるだけでなく、今後、薬剤疫学の科目に取り入れることで、それぞれ研究、教育に生かしていきたいと考えている。
貴財団のますますのご発展を祈念申し上げる。

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