ライブラリー

リレー随想 - 第39回 -

ヘルスリサーチを想う

ヘルスリサーチワークショップのメタモルフォーゼに期待

甲南女子大学教授・大阪大学名誉教授

中村 安秀

2019年、『ヘルスリサーチワークショップ(HRW)』が第15回を迎えた。15年前には、HRWの前日から世話人が泊まり込んでドキドキワクワクしながら準備した。創成の時期に関わった者のひとりとして、感慨深く慶賀に堪えないものがある。

第1回HRWのテーマは「赤ひげを評価する」であった。医師や看護職といった専門職だけでなく、経済学や人類学、行政、ジャーナリスト、NGONPOなど、いろんな立場や背景をもつ人びとが自由闊達に議論できる場を提供する仕組みは、当時としては非常に斬新であった。新鮮だった発想も、ありがたいことに、いまではふつうのこととなった。一方、「予定調和的な結論や小賢しい提言はまったく不要」であり、「21世紀に通用する理想の医療像をヘルスリサーチの視点から語り明かすこと」にワークショップの意義を見出すという熱い思いは、いまも引き継がれている。

もうひとつの大きな特徴は、HRW構想の首唱者であった開原成允先生からいただいた宿題である。「最初にHRWの形を作ったあとは、あなたたちにはいなくなってもらい、活動は続くようにしてもらいたい」。世話人代表(いまは代表幹事という)を務めた私は、最初の1回だけで現役を退いた。そして、世話人卒業者は「サポーター」となり、責任のない立場でHRWの心情的な応援団として関与することになる。

創始者がいつまでも居続け影響力を持ち続けるのではなく、変化し続けることを前提としてシステム化したのがHRWの活動組織であった。文学的に表現すれば「行く川のながれは絶えずして、しかも本の水にあらず」(方丈記)であり、生物学的にいえばメタモルフォーゼの思想といえる。

私自身は、2018年から日本WHO協会の仕事に関与している。グローバルヘルスに身を置くものからみると、この15年間で、とくにアジアやアフリカを含めた世界全体のヘルスリサーチの情報や人的交流は幾何学級数的に大きな変貌を遂げている。これからのHRWの15年を予測すると、いままで以上に大胆な変貌が求められている。さなぎから成虫になるような変態レベルのメタモルフォーゼではなく、哲学や歴史学やアニメの世界観をも取り込んで、未来と過去を自由に行き来するような転生レベルのメタモルフォーゼに期待したい。

リレー随想一覧