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リレー随想 - 第 24 回 -

ヘルスリサーチを想う

パラダイムシフト:生活者をまるごと捉える医療

慶應義塾大学 看護医療学部 教授

小松 浩子

3月1日、がん対策推進協議会において次期がん対策推進基本計画案が了承され、小宮山洋子厚労相に答申された。早ければ5月に閣議決定される。『がんになっても安心して暮らせる社会の構築』が全体目標として掲がっており、がん患者と家族を社会全体で支えていくことがビジョンとして示された。次期基本計画の分野に「がん患者の就労を含む社会的な問題」が新たに追加されたことは、疾病を対象にしていた医療から疾病を持ちながら生活している人をまるごと捉える医療のパラダイムシフトといえる。

がん患者の厳しい就労の実態が浮き彫りにされている(がん患者の就労・雇用支援に関する提言,2011)。がん患者の4人に3人は「今の仕事を続けたい」と希望しているが、実際には、3人に1人は診断後に転職・解雇、収入減を体験している。一方で、厳しい状況の中でも、4割が「病気の経験を活かした仕事」を望んでいる。日本の社会が、がん経験者による病気の体験をいわば“資産”として社会に活用できるか否かが問われている。医療技術の進歩、医療費の削減・医療の効率化というベクトルとは別に、生活者の体験を生かす医療のベクトルが、21世紀の医療を発展へと導く不可欠な要素と思われる。

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