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リレー随想 - 第 23 回 -

ヘルスリサーチを想う

プライマリ・ケアのビジョン

一橋大学 国際・公共政策大学院 教授

井伊 雅子

現在まで多くの医療制度改革案が提示されてきたが、プライマリ・ケアの将来ビジョンを示したものほとんどなかった。高齢化を迎えるにあたり、国民にとって最も身近で最も良く利用する医療として、プライマリ・ケアのビジョンを描くことは、日本の医療制度改革の重要な課題である。

医療の中で守備範囲が最も広く、専門ケアとの連携のハブとなるプライマリ・ケアが効率的でないと、病院医療に不必要な負荷がかかり、医療資源の非効率的な消費につながり、ひいては医療システム全体の非効率化につながる。プライマリ・ケアの効率化は医療全体の効率化という観点からもきわめて重要である。

日本では、プライマリ・ケアや地域医療というと、大学や大病院でキャリアを積んだ医師が歳をとってから最後に行う二流の分野のように捉えられがちである。義務として地域医療に身を置きながら屈折した気持ちをもつ若い医師がいることも残念だ。

しかし、研究分野としても、地域の日常診療の現場(Point of Care)からわき起こる診療上の疑問に答えるプライマリ・ケア研究には大きな可能性がある。世界のプライマリ・ケア先進国からは、地域の医療ニーズや患者の受療行動に関するデータが蓄積・活用されて、多くの優れた臨床研究が一流誌に発表されている。

日本の高齢社会は世界が注目している。それに対する取り組みやその成果についての情報を世界に発信することが非常に重要になってくる。医療関係者だけでなく、地域住民や社会も、プライマリ・ケア研究を臨床研究の重要な一分野として認知する時が来ている。

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