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リレー随想 - 第 18 回 -

ヘルスリサーチを想う

エビデンスレベルの高い人材育成のための
ヘルスリサーチに期待する

NPO法人卒後臨床 研修評価機構 専務理事

岩崎 榮

地域における医療が今日ほど注目された時代はないであろう。しかし残念ながら地域医療の崩壊という言葉だけが先行して“ではどうすればよいのか”という答えがない。

医師不足(偏在)だから医科大学(医学部)の入学定員を増やせばよいという、いかにも単純な発想で十分な検討もなしに1.5倍の入学定員増が決定されたことには問題だ。地域を担う医療の人材の育成は急務を要する。だが一朝一夕に成るものではない。即効的なものがないだけに悩みも大きい。

医師数や看護師数などに関するヘルスリサーチが少ないことにも原因するのかも知れない。
2005年第1回ヘルスリサーチワークショップでは、「『赤ひげ』を評価する」というテーマで行われたことは記憶に新しい。この延長線上にある話ではあるが、医師だけでなくすべての医療職の教育システムを変化させねばならない。その第1歩が36年間もの議論のうえでの新医師臨床研修制度の誕生であった。この制度では将来どのような診療科に進む医師であろうとも良質で幅広いプライマリ・ケアの基本的診療能力を身につけることが求められている。これが社会の要請だとしている。それを医師不足の元凶だとして糾弾する向きもある。全くの誤解である。医師不足の解消に王道はない。

医学部教育での地域医療マインドのカリキュラムによる学習を大幅に増やすとか地域医療実習の方略の見直しとかが急がれるのであり、現状のままでの工夫もあるであろう。本当に医師不足なのかどうか、はたまた指導者の充実、教育環境の整備なども含めて、もっと真剣に、エビデンスレベルの高い、新しい人材育成のためのヘルスリサーチがなされることが望まれる。まさに急がば廻れである。

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