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リレー随想 - 第 11 回 -

ヘルスリサーチを想う

新しいリサーチ・コミュニテイをつくる:診療直結型研究者を育成するプログラムの緊要性

京都大学大学院医学研究科 医療疫学分野 教授

福原 俊

医療者が自らの診療行為を実証的に検証する研究を実施し、その結果を社会にわかりやすく説明する責任が求められる時代が到来している。この領域はヘルスリサーチの中でもClinical Evaluative Science・診療直結型研究とでも言えるものである。当該領域においてわが国に良質の研究が十分でないことが言われて久しい。研究インフラの未整備や公的研究助成の枠組みとの不一致、など理由は多くあるが、最も深刻な問題は、臨床研究のデザイン・実施・解析・結果の解釈と効果的な公表方法について知識・スキル・経験を有する臨床研究者の層が極めて薄いことである。米国では、民間財団が約30年前より全米に臨床研究者を育成するプログラムに多額の競争的資金を助成してきた。近年NIHも同様の助成を開始した。現在の米国の臨床研究における隆盛は、層の厚い臨床研究者のリサーチ・コミュニテイの構築に向けて、政府や民間組織が中長期的な戦略によって推進してきたことによるものが大きい。

国内では未だ発展途上の段階であるといえるが、京都大学では、2005年度から臨床家を対象とした集中的短期プログラム(MCR)(www.mcrkyoto-u.jp)を2000年に設置した専門職大学院(SPH)修士課程の中に試験的に開始した。現在、多様な専門領域の臨床経験を持つ若手・中堅の臨床家が集まり、熱意をもって臨床研究の方法論を学んでいる。しかし、全国にいる臨床家の潜在的なニーズ、そして社会からの期待に比して、提供側の人的資源は少なく、現状ではまだ小規模なものに留まっている。

わが国になかった臨床研究者によるリサーチ・コミュニテイを形成するための、このような人材育成プログラムの緊要性は高く、政府・企業にもこれを支援する社会的責任があるのではないだろうか?ファイザーヘルスリサーチ振興財団にもこのような社会的に意味のあるプログラムへの支援を切に願うものである。

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