ライブラリー

vol.72

※研究期間、共同研究者の所属・職名は助成時のもの

平成27年度(2015年度)国内共同研究(年齢制限なし)

持参薬を含めた内服薬の情報管理による安全向上と
費用対効果

宇都 由美子

鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 医療システム情報学 准教授

宇都 由美子

共同研究者
  • 下堂薗 権洋
  • 九州保健福祉大学薬学部薬学科医薬品情報学研究室 教授
研究期間
2015年12月1日~2016年11月30日
背景と目的

外来での長期処方が可能となったこと、また、短期入院化が進む中、持参薬の継続使用に関する問題がより頻繁に顕在化してきた。2014年度診療報酬改定において入院の契機となる傷病の治療に係る持参薬の使用は原則禁止された。しかし、実際には99.6%のDPC対象病院で持参薬が使用されている。持参薬使用の是非に関する議論はあるものの、持参薬によって業務が複雑化し、問題が起きやすくなっている実態がある。また、持参薬には、内服薬の他に外用薬や自己注射等がある。これらについても、持参薬と入院後処方薬の混在を考慮した業務の標準化が必要である。持参薬の継続使用を行っている医療機関においては、持参薬による有害事象の発生防止が極めて重要であるが、持参薬と入院後処方薬との整合を確保しながら運用する方法は確立されていない。このため、持参薬と入院後処方薬の双方を認識し、両者間での重複、漏れ、不整合等の有害事象を防止できる持参薬の管理運用法の確立が急務である。

研究内容
  1. 鹿児島大学病院(以下、当院という)においては、薬剤師が持参薬オーダを行いデータ化した上で、医師が入院後継続して服用する持参薬の指示を出している。その後、医師が入院後処方薬のオーダを行うと、「持参薬と院内処方薬の共通禁忌チェック(搭載薬剤69,280件)」が機能し、内服薬のみならず外用薬、注射薬についても同時に監査が行われ、配合禁忌等の有害事象が確実に防げる仕組みを実現した。
  2. 持参薬で入院後継続服用が多い薬剤は、循環器官用薬、消化器官用薬、中枢神経系用薬、その他の代謝性医薬品、血液・体液用薬の上位5 種類で54%を占めていた。手術の有無では差異は認められなかった。
  3. 入院契機傷病に対する治療薬を厳密に除いて、持参薬の入院後服用を進めているが、入院後服用した薬剤を金額で換算すると、院内処方薬が24%、持参薬が70%、退院処方が6%であった。
成果

内服薬の他に外用薬や自己注射等を含む持参薬と入院後処方薬との整合性を確保しながら運用するため、ICTを活用した服薬安全管理システムの構築を実現した。当院においては、医療安全を重視した電子指示システムを開発する際に、持参薬についても指示システムに反映させる取り組みを行った。入院時に薬剤師が持参薬の全てをオーダ登録し、それらの中から、入院後も継続服用する持参薬を医師が承認する。医師が入院後処方薬をオーダすると、「持参薬と院内処方薬の共通禁忌チェック」が行われるため、有害事象を生じる恐れがある薬剤を選択すると、絶対禁忌の場合はオーダが出来なくなる。これらの取組みにより、持参薬と入院後処方薬の配合禁忌等の有害事象が確実に防止できるようになった。

考察

ICTを活用して、入院後も服薬継続する持参薬について全てデータ化し、入院後処方薬と同等に管理できるシステムの構築が、安全な服薬管理には不可欠である。これらの基盤が整備できれば、「持参薬と院内処方薬の共通禁忌チェック」が有効に機能し、内服薬のみならず、外用薬や注射薬との禁忌についても同時に監査できる。また、「共通禁忌チェック」に製品名でなく一般名や成分の登録があれば、更に確実なチェックが行える。安全性を担保した上で、入院後の継続した持参薬の服用を進めることができれば、持参薬の継続使用が進み、我が国における「服用されずに捨てられる薬剤」の量を減らすことができ、医療費の低減化に多大に寄与できる。

平成27年度(2015年度)国内共同研究(年齢制限なし)

エンド・オブ・ライフケアの質と医療・介護費との関連調査

山岸 暁美

慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室 講師
医療法人財団千葉健愛会 あおぞら診療所 在宅看護専門看護師

山岸 暁美

共同研究者
  • 堀田 聰子
  • 国際医療福祉大学大学院医療福祉学分野 教授
  • 森田 洋之
  • 南日本ヘルスリサーチラボ 代表
  • 米澤 純子
  • 東京家政大学看護学部看護学科(公衆衛生看護) 准教授
研究期間
2015年12月1日~2016年11月30日
背景と目的

高齢者の医療費・介護費に関する報告は、診療または介護の報酬請求データのみの解析が多く、個人の属性や家族介護の状況、本人・家族の意向との関連については述べられていない。また、死因に代表される個人・世帯属性から死亡者の類型化を行い、サービス利用や費用面での特徴を明らかにした報告もない。一方、終末期における費用とケアの質の評価の関連に係る知見は散見される程度で、特に日本では知見がない。

本研究の目的は、今後計画している終末期患者を対象とする前向き観察研究において、統計分析に耐えうる妥当な指標やその取得方法論への示唆を得るために、約150例の症例から、要した医療費・介護費と終末期のケアの質の遺族による代理評価の傾向を把握することである。

研究内容

自記式質問紙による郵送調査では、1)ケアの構造・プロセスの評価(Care Evaluation Scale:CES)、2)ケアのアウトカムの評価(Good death Inventory:GDI)、3)ケアに対する全般満足度、4)介護負担・介護離職、5)死亡した療養場所に移動したときの状況、6)療養場所の選択、7)患者・家族の受ける治療・ケアの選択、8)療養場所、治療の選択肢に影響する条件、9)インタビュー調査に対する同意について調査した。返送があった在宅(42名:自宅:26名・居住系施設:16名)、療養病床(37名)、急性期病床(38名)、緩和ケア病床(38名)を対象とし、会計表から 1)医療保険請求(日別点数、月別合計点数、患者負担額、処置の内容と実施日、処方内容と処方日、2)介護保険請求(提供されたサービス内容、頻度、加算を抽出)を把握した。さらに、同意を得た20名を対象とするインタビュー調査では、医療や介護に関する意思決定の詳細、入院中・在宅療養中の様子、状態悪化時のエピソードについて調査した。

成果

約150例の症例から、要した医療費・介護費と終末期のケアの質の遺族による代理評価の傾向を把握した。

  1. 対象者の保険請求額は場所による差が大きかったが、自己負担額はほぼ同額であった。亡くなる前1か月の医療費・介護費の保険請求総額の平均額は、自宅53万円、居住系施設61万円、療養病床95万円、急性期病床143万円、緩和ケア病床113万円であり、実際の支払い総額(食費・見舞いの交通費・介護施設の場合は居住費も含む)の平均は、各々、7万円、17万円、11万円、11万円、12万円であった。経済的負担感(自覚的)は場所による有意差はなかった。
  2. 支払い金額の妥当性評価と経済的負担感は、ほぼ同義で評価されていることが示唆された。支払い金額の妥当の決定要因として、"患者の希望と実際の療養・死亡場所の一致" "療養場所の移行に関する医療者との話し合いが十分" "治療に関する医療者との話し合いが十分" "受けた医療・ケアに対する全般満足度" "CES点数" が同定された。
  3. 希望した療養場所と実際の療養場所の一致の決定要因として、"医療者との療養場所に関する話し合いが十分" "最期の過ごし方について本人と家族で話し合いをした" "家族が先々起こることについて分かっていた" "介護者が配偶者" "診療に当たった期間" が同定された。
  4. CES、GDIの平均得点は、自宅54点、110点、介護施設51点、102点、療養病床41点、80点、急性期病床39点、76点、緩和ケア病床47点、105点、受けた医療・ケアに対し非常に満足および満足と回答した割合は、各々、88%、87%、41%、40%、49%、介護負担尺度得点およびSF8(抑うつ)得点は、在宅(10.3点、3.1点)、緩和ケア病棟(11.4点、4.9点)、療養病棟(15.6点、6.1点)、急性期病棟(15.3点、10.67点)であり、終末期のQOLの達成、終末期のケアの評価と介護負担・抑うつは、場所による有意差が見られた。
  5. インタビューでは、想定以上に病状が早く進んでしまった事例や在宅療養を希望していたが救急搬送により急性期病院での最期を迎えた事例は、事前の話し合いの不足を後悔する傾向が見られた。
考察

本研究により、療養・死亡場所ごとのケアの質と費用との関連を分析するための方法論に関する示唆を得られた。また、本研究から得られた結果を元に、国民の人生の最終段階における療養場所や治療に関する意思決定や専門職によるその支援に資する基礎資料を作成する予定である。

平成27年度(2015年度)国内共同研究(満39歳以下)

地理情報システムによる医療・介護の横断的地域分析の試み

土井 俊祐

東京大学医学部附属病院 企画情報運営部 助教

土井 俊祐

共同研究者
  • 久保田 健太郎
  • 千葉市保健福祉局地域包括ケア推進課 主査
研究期間
2015年12月1日~2016年11月30日
背景と目的

2025年に向けて国が実現を目指している地域包括ケアシステムでは、住まい・医療・介護・予防などの支援を一体的に提供することが求められている。2013年には医療介護総合確保推進法が成立し、医療計画と介護保険事業の整合性を取るため、2018年度からは医療計画と介護保険事業計画の策定が同年度に揃えられるなど、様々な準備が進められている。実際に地域包括ケアシステムの推進を地域で担当する市町村には、特に在宅医療等において客観的データに基づく計画策定が求められている。しかしながら、規模の小さい市町村はその基礎資料となるデータや、分析のノウハウを持ち合わせていないことが多い。地域の医療・介護サービスを提供する診療所や介護施設のサービス圏域は市町村全域をカバーできることは稀であり、市町村内の地域の特性を考慮する必要がある。よりそこで本研究では、市町村の担当者と協力し、医療・介護のレセプトデータを横断的に取得し、市町村内の医療・介護施策の基礎資料とするための地域分析を行った。分析には地理情報システム(GIS)を利用し、市内の地域別のサービス利用の状況などを視覚的に把握できるよう工夫した。

研究内容

本研究は、自治体の地域包括ケア担当職員との協働により遂行した。対象地域は人口約96万人の政令指定都市である千葉県千葉市である。本研究では、千葉市の保有する医療・介護のレセプトデータを横断的に取得し、地域の各サービス利用について集計した。サービスの種類としては、地域医療構想においても市町村を主体として計画することが求められている在宅医療・居宅介護(訪問看護)のサービス利用を研究対象とした。同サービスの利用者の大半は後期高齢者であるため、本研究では75歳以上の後期高齢者のサービス利用を集計の対象とした。また、人口などの統計指標や地理情報システムによる解析を利用し、サービス利用に関する背景情報を比較検討することにより、対象地域の医療・介護サービスの利用状況について考察した。

成果

まず、市全体の性・年齢別のサービス利用率を算出した。医療や介護サービスの利用率は一般的に高齢になるほど利用率は上がる傾向を示すと考えられるが、本集計結果も同様の傾向を示した。また、75歳以上の後期高齢者では、いずれの年齢階級でも女性の方がサービス利用率は高かった。次いで、市全体の高齢者人口をもとに年齢調整した、地域別のサービス利用率を算出したところ、市内6区の間では最大で1.4倍の差(人口千人当たり30.5~43.8)があった。郵便番号間の利用率ではさらに大きな差(人口千人当たり・中央値36.2、四分位範囲26.4~50.6)が生じていた。また、郵便番号別の利用率を地図上に示したところ、主要駅の周辺部、在宅医療拠点、施設型介護サービス拠点等、サービス供給地点の周囲で利用率が高い傾向があることが示唆された。

考察

市の調査では、今後10年間の医療・介護需要の伸びを最大で1.5~1.7倍程度と見込んでおり、市内全域での医療・介護提供体制の整備は急務である。このような政策立案の過程で、効率性・公平性の観点からサービスの立地計画を考慮する際に、本研究のような分析が有効であると考える。本研究のように地域特性を踏まえた分析が必要となる場合、その地域に詳しい行政担当者を研究チームに加えることは非常に有用であると考える。これは単に地理的な背景情報を得られるという利点のみではなく、自治体職員の研究成果への理解、政策策定への活用まで一体的な支援ができるからである。また、客観的データに基づく政策立案が求められる昨今、学術的視点からも自治体を支援するような枠組みが必要ではないかと考える。

研究助成成果報告一覧