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第 27 回

温故知新 ー助成研究者は今ー

「財団助成研究・・・その後」

第20回 平成23年度(2011年度)国際共同研究助成

特定非営利活動法人 日本医薬品安全性研究ユニット理事長

久保田 潔

「大規模データベースによる医薬品安全性評価:アジア共同研究」
Asian Collaborative Research on Drug Safety Using Large Databases

2010年10月に東京で開催された国際薬剤疫学会アジア会議(ACPE)第5回会合で、台湾、韓国、日本などの研究者による、非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAIDs)の安全性を比較する国際共同研究の計画が発表された。「大規模データベースによる医薬品安全性評価:アジア共同研究」の助成金は、この研究を推し進めるために申請し、助成された。

国際共同研究の推進は、しかし、容易ではなかった。本研究の結果が最終的に Pharmacoepidemiology and Drug Safety誌(2018;27:1223-1230)に掲載されたのは、計画発表の8年も後のことである。結果を見ると、「消化管障害(消化管出血など)による入院」の発生率は、1000人年あたり、11.5(台湾)から484.5(香港)と国により大きく異なり、ジクロフェナクに対するロキソプロフェンの「消化管障害による入院の発生」のリスクは、韓国では1より有意に低いのに日本ではむしろ1より高い傾向にあった。論文では「各国間で何が異なるか」は若干考察したが、結果をより適切に解釈するためには、今後、推定されるイベント発生率が、医療・保険制度、医薬品や傷病名の分類、データベースに格納されるまでのデータ処理のプロセスなどでどう変わりうるかの究明が必要である。

国際共同研究に対する助成金をその趣旨にそって支出する、という点においても問題を残した。当時、科研費をはじめ、様々な助成金の適切な管理が強く求められ始めており、申請者も全ての助成金を一度東京大学付属病院の会計に入れ、東京大学の内規に従って支出することが求められた。結果として、助成金の一部を、海外に送金するなどはできなかった。海外の研究者からは「日本で得たものなので、日本の研究者が最良と判断する形で支出すればそれでよい」と声をかけていただいたが、今後適切な方策が講じられることを期待したい。

申請者が平成24年12月付で作成し、財団に送付した「助成金による国際共同研究成果報告書」を見返すと、本研究が当時まだ進行中であることに加え、「本研究は国際薬剤疫学会の活動のSpecial Interest GroupSIG)の一つとして認められているAsian Pharmacoepidemiology NetworkAsPEN)の枠組みを使って実施されている」と記載されている。2012年4月、マイアミで開催された国際薬剤疫学会(ISPE)のmid-year meetingにおけるAsPENの承認は、本研究に参加した研究者が中心となって実現した。国際共同研究、特に医療制度の違いなどの影響を直接受けるデータベースを用いた国際共同研究には大きな困難を伴うが、その困難は各国の研究者が協力して時間をかけて解決するほかはない。本助成金が国際学会における公式グループ結成につながったことに心から感謝したい。

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