ライブラリー

第 22 回

温故知新 ー助成研究者は今ー

「財団助成研究・・・その後」

第18回 平成21年度(2009 年度)国内共同研究助成

徳島文理大学香川薬学部

飯原 なおみ

「医者を信じているから薬の説明はいらないよ」

患者の心が服薬を決めるのだろうか?この疑問に端を発した研究に、ファイザーヘルスリサーチ振興財団から2009年に助成を賜った。この言葉を聞いた1994年当時、日本では、患者が薬を指示通りに飲んでいるか否かは「服薬コンプライアンス」と呼ばれ、その要因解析研究はどれもが医薬品特性もしくは社会人口学的因子に着目したものだった。ところが、欧米では、「服薬コンプライアンス」に代わり「服薬アドヒアランス」「コンコーダンス」という患者の立ち位置にたった用語が既に使用されており、当時から20年も遡る1975年に、患者心理と服薬行動についての関係性を示す「ヘルスビリーフモデル」が提唱されていた。日本と欧米との捉え方の違いに驚き、海外の文献を読み漁った。

現在、大学薬学部に在籍している私は、患者と直接向き合うことはなくなったが、ズームアウトして社会から医薬品使用の課題を捉えるようになった。医薬品使用履歴の一元管理は海外ではどうしているのか、お薬手帳を使っているのかと思い、デンマークの薬剤師に訊ねた。「地域に薬局は1軒なので薬局内のシステムで一元管理可能」との返答。人口10万人あたりの薬局数は、日本が45施設に対してデンマークは4施設である(FIP2015),Global Trends Shaping Pharmacy – Regulatory Frameworks, Distribution of Medicines and Professional Services. 2013-2015)。また、デンマークでは投薬情報共有システム(SMR:Shared Medication Record,デンマーク語はFMK: Fælles Medicinkort)が2015年から全国民を対象として稼働し、投薬内容は施設の異なる医療者で確認できるだけでなく国民もアクセスが可能である。最も感心したのは、医薬品治療委員会(Drug and Therapeutic Committee)の存在だ。5つの地方行政区画それぞれに医薬品治療委員会が置かれ、徹底した、医薬品の合理的使用が進められている。この委員会の役割は、①地域推奨薬を選定すること、②臨床治療ガイドラインにそった医薬品使用を病院内の委員会と連携して遵守させることにある。

日本において、「医薬品適正使用」が「21世紀の医薬品のあり方に関する懇談会」で定義された1993年頃、「Rational Use」は「適正使用」と訳されていると聞いたことがある。「合理的使用」と訳して海外の仕組みや考え方を紹介すべきではなかったかと、2025年問題を直前にして思う。

医療を様々な角度からとらえるヘルスリサーチがますます重要となる時代を迎えた。研究助成くださいましたことに心から感謝申し上げるとともに、ファイザーヘルスリサーチ振興財団の様々な研究に対する助成が近未来の医療の礎になることを確信する。

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