ライブラリー

第 18 回

温故知新 ー助成研究者は今ー

「財団助成研究・・・その後」

第16回 平成19年度(2007年度)若手国内共同研究助成

京都大学泌尿器科

小林 恭

平成19年度国内共同研究助成により「前立腺癌集団検診における年齢階層別PSAカットオフ値導入に関する費用対効果研究」を実施させていただきました。私のバックグラウンドは泌尿器科医で前立腺癌を専門的興味の対象の一つとしております。一口に前立腺癌研究といってもそのスケールは多種多様で、ミクロの世界を相手にした分子生物学的研究から、等身大の患者さんを対象とした臨床研究だけでなく、広く一般人口を対象としたマクロな視点に立脚し、社会としてこの疾患をいかに克服していくかを考えることも重要であると常々考えてきました。

一般人口を対象とした前立腺特異抗原(PSA)測定による前立腺癌スクリーニング(以下PSAスクリーニング)に関しては、PSA検査そのものの特異度の低さや一次健診陽性者のその後の診断・治療関連有害事象などによって過剰診断・過剰治療のリスクが大きくなるとの懸念を理由に否定的な見方も少なくないのが現状です。しかし近年の研究成果からPSAスクリーニングが前立腺癌死亡率を低下させることに疑いの余地はないことから、診断・治療関連有害事象や過剰診断・過剰治療を最小限に抑えることがPSAスクリーニングのより効率的な運用へとつながることは間違いありません。

泌尿器科医として日常の臨床の中で診断・治療関連有害事象の低減に努める傍ら、PSAスクリーニングの最適化をもたらす健診デザインを模索することが本助成研究の主目的でした。結果的にリスクとベネフィットのバランスの中でよりPSAスクリーニングの恩恵を受ける集団を標的として健診を強化することによってPSAスクリーニングの費用対効果を改善することができることが示唆され、大変有意義な成果を得ることができました。このような研究の機会を助成というかたちで展げてくださったファイザーヘルスリサーチ振興財団にあらためて心より感謝申し上げます。

この分野の研究は、その後実地の健診結果から得られたデータを基にさらなる詳細な検討がなされ、私たちの数理モデルを用いたシミュレーションによって示唆されたPSAスクリーニングの有用性が証明されようとしています。今後も前立腺癌という疾患を様々な視点・スケールで捉え、多角的なアプローチでこの疾患を考えていきたいと思っています。

本研究を実施するにあたって京都大学大学院医学研究科泌尿器科学の小川修教授をはじめとして教室の皆様方には多くのご指導をいただきました。また 共同研究者である現・京都大学白眉センターの後藤励先生の貢献無くしては本助成研究の遂行は不可能でした。大学・初期研修の同期の仲間に彼のような人材がいたことが私の医師・研究者人生にとってどれほど幸運なことであったかはとても筆舌に尽くせるものではありません。今後も社会にとって有益な研究成果を発信していけるよう協力をしていけたらと願っています。

温故知新一覧