ライブラリー

第 14 回

温故知新 ー助成研究者は今ー

「財団助成研究・・・その後」

第13回 平成16年度(2004年度)国内共同研究助成

京都大学医学部附属病院 早期臨床試験部 准教授

村山 敏典

村山敏典

医師・研究者主導の臨床試験・治験における医療費と補償・賠償について(第3報)

2004年11月の第11回ヘルスリサーチフォーラムで、一般公募演題として標記(第1報)を発表し、幸いにもこのテーマで貴財団から平成16年度国内共同研究助成をいただいて、はや9年近く経過しました。当時も今も、基礎医学でも臨床医学でもないこのような領域での研究助成を実施されている財団は希有であり、私どもにとって非常に貴重な存在となっています。潤沢な助成金1年間では執行しきれず、財団理事会の先生方と事務局のお許しを得て研究期間を延長していただきましたこと、併せて深謝いたします。

さて、2004年当時は医師主導治験がようやく始まり、企業治験に倣って治験保険が開発されたばかりであり、国に届け出ず「臨床研究に関する倫理指針」に基づいて行う自主臨床研究は、質が担保されずリスクが読めないので、臨床研究の補償保険などはとても設定できない.と保険会社からも有識者からも批判を受けました。とはいえ、医学の発展のために研究に参加される被験者/患者には治験や自主臨床研究の区別はなく、したがって等しく健康被害の補償をされるべきであるというのが私の持論でした。

そこで、本研究助成をもとに2005年10月に第3回トランスレーショナルリサーチ研究会(京都)でシンポジウム「なぜ治験外臨床試験の健康被害に補償ができないのか?」を開催して問題点を整理し、翌2006年5月には第27回米国臨床試験学会(Society for Clinical Trials)年次大会で、我が国のdouble standard(治験/自主臨床研究)の現状を報告したところ、欧米の研究者から驚きと批判の声が上がりました。同年12月の第13回ヘルスリサーチフォーラムでは標記演題(第2報)として、やがて(2009年~)始まる産科医療補償制度を紹介しつつ、「臨床研究の健康被害に対する無過失補償」の導入が近い将来実現することを夢見ているとお話ししました。その後、関連研究課題で2007年度から科学研究費補助金基盤研究(C)を連続して獲得することができ、「臨床研究に関する倫理指針」の見直しに際して、健康被害補償に関するパブリックコメントを提言し、その一部が反映される形で、2008年7月に同指針が全部改正され、医薬品・医療機器を評価対象とする介入研究では保険その他の補償措置を講じることが研究者の責務と定められました。これを受け、2009年4月から民間損保会社が臨床研究保険の商品開発・販売を開始し、現在に至っています。

私は2011年2月の第2回日本臨床試験研究会学術集会でシンポジウム「臨床研究にかかる補償について」を企画して、3損保会社の保険商品開発実務者を初めて一堂に会させ、その後も研究者・損保会社・保険代理店と議論を重ねて、補償制度の拡充に努めています。貴財団の助成は私の研究の転機となるとともに、本邦の臨床研究に少なからぬ影響を与えています。

温故知新一覧