ライブラリー

第 9 回

温故知新 ー助成研究者は今ー

「財団助成研究・・・その後」

第11回 平成14年度 国際共同研究助成
第14回 平成17年度 短期招聘助成

広島大学大学院保健学研究科 保健学専攻看護開発科学講座 教授

森山 美知子

森山美知子

平成14年度、役所から大学へ転出し、その役割移行の時期に頂いた「糖尿病の疾病管理におけるアセスメントアルゴリズムと介入プログラムの開発:日米比較研究」に夢中で取り組むことで、現在の研究の方向性が決まったことに感謝している。第4回「温故知新」に登場した坂巻氏に誘われて、疾病管理の領域に入り込んだ。米国視察、国際学会に参加するうちに、「疾病管理のメインプレイヤーは看護師」である事実に、日本の看護界の代表のような責任感を覚えた。慶應義塾大学大学院教授田中滋先生のご配慮もあり、疾病管理の研究会や日本ヘルスサポート学会の理事に入れていただいた。

疾病管理の重要な構成要素である、EBM、患者教育、医療の連続性の確保。疾病管理先進国は、ROI(Return on Investment)の高い三次予防からスタートし、現在、
total health managementまで拡大してきている。日本は、特定健診・保健事業からのスタートと逆方向からのアプローチであるが、国家免許をもった者の特権である三次予防の領域に強くコミットしたいと考えている。海外の疾病管理会社、研究者との交流、わが国の医療機関での臨床試験を通して、ようやく、自分なりのサービス提供の枠組みと日本の医療システムの中での立ち位置が決まり、現在、大学発ベンチャービジネスの立ち上げに忙しくしている。保険者からの委託を基本に、糖尿病、糖尿病腎症(CKD)、脳梗塞、心筋梗塞、COPD(在宅酸素会社との共同)、慢性心不全の、重症化予防のプログラムのサービス提供をスタートさせた。人は複数の疾病や症状を有する。これらを引き起こす本質的な理由/原因を見極め、どこから入り込めば全体が変化しているのかを考えてアプローチする。こういった複雑な状態にアプローチできるのがわれわれの特徴だと考えている。

疾病管理は幅が広く、定義は時代の変遷とともに変化している。サービス提供の形態もその国の医療保険制度によって異なる。
民間企業が活躍する米国、州政府ベースで提供される豪州、WHO欧州ではプライマリヘルスケアの中で家族全体の支援と結びつけてFamily Health Nurse Projectとして各国で展開している。これも、もう一つの私の研究テーマとなった。そして、大学院教育では慢性疾患看護専門看護師の養成に取り組み始めた。

平成17年度に頂いた「家族看護の視点からの病の苦悩、スピリチュアリティ、癒しの西洋文化と日本文化の比較及び臨床介入評価研究法の開発」では、家族看護で世界的に著名なWright博士(カナダ)を日本に招聘し、彼女を連れて、宗派の異なる仏教寺院を訪問し、管長や住職の方々にお話を伺った。緩和ケアなど、日本の医療界では教育でも現場でも西洋思想を中心に取り込まれていくことに違和感と危機感を覚えてのことだ。しかし、論理展開を中心とする西洋思考を小学校から叩き込まれている私達には、これをどのように看護教育に取り込んでいくのか、大きな課題となった。

このように、節目、節目にチャンスを与えてくださった貴財団に深く感謝申し上げます。

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