ライブラリー

第 8 回

温故知新 ー助成研究者は今ー

「財団助成研究・・・その後」

第14回 平成17年度 国際共同研究助成

大阪大学医学部附属病院 中央クオリティマネジメント部長 病院教授

中島 和江

中島和江

私とファイザーヘルスリサーチ振興財団研究助成制度との出会いは、平成9年度国際共同研究「医療過誤訴訟の報道が医療に与える影響に関する研究」にさかのぼります。これは、厚生省保健医療局国立病院部運営企画課におられた鹿内清三先生を代表者とする研究で、私は共同研究者として参加いたしました。当時、私はハーバード公衆衛生大学院に留学し、ハーバードリスクマネジメントファンデーションでインターンシップを行っていました。米国のヘルスリサーチがカバーする領域の広さと研究者の層の厚さに圧倒されっぱなしであった私にとって、この助成金を得て他領域の方々とともに国際的な研究を行う機会を得たことは、大きな励みになるとともに、自分自身の将来の目標に対する確かな手応えを感じるキッカケにもなりました。

帰国後まもなく、米国の「School of Public Health(公衆衛生大学院)」における教育の実際について、文部科学省でお話をする機会をいただきました。その内容が後日「大学と学生」という雑誌に掲載されており、今回、もう1度読み返してみました。「ヘルスリサーチは、公衆衛生学に携わる者のみが必要とするものではなく、医療に関係するあらゆる職種の者にとって必要なものである。人間相手の仕事である医療の現場は、徹底なリアリズムの世界であり、従来の医学教育と臨床研究及び基礎研究のようなサイエンスだけでは解決できない問題があまりにも多い。……本来、これらの難問はヘルスリサーチの守備範囲であり、その解決には多くの領域の厳密な学問的手法を必要とするものである」などと、医学界の重鎮たちを前にヘルスリサーチの重要性を説いていたようで、今となっては汗顔の至りです。

とはいえ、このことが御縁となって本財団のヘルスリサーチワークショップに世話人として参加しないかというお誘いがありました。第4回では畏れ多くも代表幹事まで務めさせていただきましたが、私にとっては大変な幸運でした。議事録を紐解けば第1回のヘルスリサーチワークショップ企画委員会では、全国から集まった世話人たちの議論を受けた開原先生の「『あそこにああいうことをやっている人がいる』ということが分かることが大切なのだ」という御発言が残されており、あらためて黎明期の熱気を思い出します。その後、平成17年度には本ワークショップの仲間とともに「高品質医療の提供と高収益医業を両立させる経営品質管理システムの研究」というテーマの国際共同研究を行う機会もいただきました。

臨床医から方向転換して飛び込んだヘルスリサーチの世界ですが、それまでとは違った幅広い視点で医療を見ることができるようになりました。これからも本財団の研究助成制度やワークショップ等を通じてヘルスリサーチの仲間の輪が広がり、世界から評価される研究成果が日本から発信されることを願っています。

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