ライブラリー

第 7 回

温故知新 ー助成研究者は今ー

「財団助成研究・・・その後」

第14回 平成17年度 国内共同研究助成

慶應義塾大学 総合政策学部 専任講師

秋山 美紀

秋山美紀

2005年度に「医薬連携と情報通信技術―病院医師と保険薬局薬剤師のコミュニケーションと情報共有が服薬指導と薬剤師の知識習得に与える影響」で、貴財団より、国内共同研究助成をいただいた。医薬分業の下、保険調剤薬局が病院とITネットワークを用いて情報共有を行うことで、服薬指導の内容やその結果として服薬コンプライアンスにどのような影響があるのか、多面的にデータを収集し検証した。この研究は、共同研究者の千葉大学薬学部の根岸悦子先生、千葉県立東金病院の平井愛山先生および山武群市薬剤師会の全面的なサポートをいただいて実施した。

当時の私は博士課程の院生で、医療とITの接点について研究を始めたばかりの駆け出しだった。こうした研究を始めることになったきっかけは、2003年7月に国が発表した『e-Japan 戦略Ⅱ』の作成に関わったことである。これには、電子カルテのようなITを普及させれば、地域の医療機関が患者情報を共有しやすくなり連携が促進される、という青写真が描かれていた。「こんなうまいこといくのだろうか…?」と思いながら1年が過ぎ、2004年の秋よりe-Japan 戦略の成果を評価する『IT戦略評価専門調査会』を再びお手伝いする機会をいただいた。多額の補助金を使って各地で作られた医療連携用ITシステムについてヒアリング調査をして驚いた。多くの地域で、実証実験が終わるとITシステムは使われなくなっていた。「ITを入れるだけではダメだ。どのように使えば成果が上がるのか、徹底的に調査したい・・・」と思った。
約20箇所の地域を視察し、多職種の情報共有にITをうまく利用していた数少ない成功例のひとつが千葉県山武地区だった。私が研究者として一歩を踏み出せたのは、無名の私を暖かく迎え入れて下さった調査対象地区の皆様と貴財団の助成のおかげである。心より感謝している。

この研究成果は、2009年3月に「日本医療マネジメント学会誌」(第9巻4号)に原著論文として採録された他、私の博士論文とそれを基に執筆した『地域医療におけるコミュニケーションと情報技術-医療現場エンパワーメントの視点から』(慶應大学出版会、2008年)、『地域医療を守れ-わかしおネットワークからの提案』(岩波書店、2008年)という2冊の書籍の一部としても出版させていただいた。このように目に見える形で多くの人に研究成果を共有していただけたことは、この上ない喜びである。

これを土台に、ここ数年の私は地域医療ネットワークの様々な研究に携わっている他、平井先生とは糖尿病連携パスの全国ネットワークづくり等ご一緒に活動させていただいている。この間、貴重な出会いと学びの場である「ファイザーヘルスリサーチワークショップ」にも毎年参加させていただき、昨年度は世話人、今年度は幹事をお引き受けしている。

私のような駆け出しの研究者が一歩を踏み出せるような機会を、ぜひ今後も貴財団につくっていただきたいと期待している。

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