ライブラリー

第 6 回

温故知新 ー助成研究者は今ー

「財団助成研究・・・その後」

第12回 平成15年度 国際共同研究B助成

千葉県立東金病院副院長 千葉県衛生研究所 所長

天野 恵子

天野恵子

2003年に「性差医療:日本における性差医療の確立とそれに基づく医療サービスに対する患者の満足度と其の要因の国際比較」でファイザーヘルスリサーチ振興財団から研究助成をいただきました。性差医療とは男女比が圧倒的に男女どちらかに傾いている病態、発症率はほぼ同じでも男女間で臨床的に差を見るもの、いまだ生理的・生物学的解明が男性または女性で遅れている病態、社会的な男女の地位と健康の関連などに関する研究を進め、その結果を疾病の診断、治療法、予防措置へ反映することを目的とした医療改革です。性差医療の概念は、米国における女性の医療の見直しから始まりました。

米国は1990年、女性における疾病の予防、診断、治療の向上と、関連する基礎研究を支援する目的でNIHの中に女性健康局を設置し、政府主導で大規模な疫学調査を開始するとともに、1996年から2004年にかけては、24の医科大学にCenter's of Excellence in Women's Healthを設置し、上記の目的に添った医療人材の教育、医療サービスの展開、臨床ならびに基礎研究を推し進めてきました。其の動きを日本へ1999年に紹介し、2001年に「性差を考慮した医療の実践の場としての女性外来」を鹿児島大学と千葉県立東金病院に開設しました。2002年には、性差医療・医学研究会ならびに性差医療情報ネットワークを立ち上げ、前者では医学教育の中への性差の視点の導入を、後者では女性外来担当医師の教育を目指しました。2003年にファイザーからの研究助成を得て、全国に展開する女性外来の患者データをファイリングする作業に入りました。2001年から2003年までの東金病院女性外来受診者のデータをもとに、患者の主訴・症状、医師による介入効果を経時的にフォローするシステムを作成し、東金病院での試運転、システムの再考を行いながら、2006年より12施設の参加のもと稼動しています。其の結果、女性外来では、全年齢層にわたって精神疾患が3割を超えること、医療介入の効果が大きく、患者満足度が高いこと、漢方薬の使用率が高いなどが明らかとなっています。

患者満足度に影響があった項目は、高い順に「患者の話を聞く医師の姿勢」「医師の説明のしかた」「医師の経験や知識量」でした。米国のCenter's of Excellence in Women's Healthの現状も視察しましたが、米国では1970年代から医療サービス向上の対象は女性であり、1990年代からはさらに女性のライフサイクルと疾患に関するエビデンスの構築を目指した施策が展開されており、日本における女性医療の遅れを痛切に感じました。幸いにも、この数年日本でも女性外来が認知され始め、“性差”と言う概念は医学会のみならず社会にも浸透しつつあります。日本における性差医療のまだ駆け出しのころに、貴財団より研究資金を得て、大きく研究を進めることが出来たことに感謝しています。

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