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第 3 回

温故知新 ー助成研究者は今ー

「財団助成研究・・・その後」

第5回 国際共同研究助成

京都大学医学研究科 社会健康医学系専攻
医療疫学分野 教授

福原 俊一

福原俊一

1996年にファイザーヘルスリサーチ振興財団から第5回国際共同研究で助成をいただいた。この研究は、UCLA総合内科教授のNeil Wenger先生および尾藤誠司先生(現国立病院機構 臨床研究推進室長)と共同で、終末期医療における医師・患者・家族の意思決定に関して行ったが、これは後に貴財団から渡航助成をいただいて同じ部署に留学した松村真司先生(現松村医院院長)によって引き継がれ論文として結実した。(Matsumura S, Bito S, Liu H, Kahn K, Fukuhara S, Kagawa-Singer M, Wenger N: Journal of General Internal Medicine, 2002)実はさらに遡ること17年前、筆者がHarvard Medical SchoolClinical Effectivenessという臨床研究の集中コースで修練を受けに行った際に提出した最初のリサーチクエスチョンもこのテーマであった。その後、このクエスチョンは浅井篤先生(現熊本大学教授)によって国際共同研究に発展し、論文化した経緯がある。(Asai A, Fukuhara S, Lo B. The Lancet 1995)この一連の研究テーマは、現在もこの3名の先生により、政府からの研究助成のもと深められ発展していると、嬉しくうかがっている。貴財団がこれら一連の研究に与えてくださった貴重な機会に対して、感謝するとともに、この研究から得られた知見が、論文等の可視化された媒体を通じて多くの方々に共有され、ひいては診療実践の改善にも貢献することをもって報いたいと考えている。

思えば1990年代初頭、ファイザーヘルスリサーチ振興財団発足当時、我が国にはヘルスリサーチという概念がまだ定着していなかった。EBMという用語はなく、臨床研究も他の意味で理解されていた。そのような時代にヘルスリサーチを推進する組織を発足させた財団の見識に改めて敬服する。その後、1990年代末に、EBMが澎湃(ほうはい)として現れ、我国に良質なエビデンスが不足していることが認識されるにいたり、エビデンスを提供する臨床研究、これを包含するヘルスリサーチの重要性の認識は飛躍的に増大したといえよう。現在厚生労働省の戦略的アウトカム研究など大型の臨床研究への助成も行われるようになった。

このように政府機関が大型のヘルスリサーチに助成を行うようになった現在、貴財団の社会的役割も変化しても良いのかもしれない。一例にすぎないが筆者の体験を少し。25年ほど前に筆者はUCSFで内科研修を受けたが、最終年度にelectiveとして、疫学教授のSteven Hulley教授が主催した研究デザインコースに参加した。この時コピーして配付されたシラバスが後に名著「Designing Clinical Research」(William & Wilkinson)となり、日本でも多くの人に読まれている。当時Hulley教授はカーネギーメロン財団からファンドを得ていて、6~7名の若い臨床医がfellowとして給与を得て勉強していた。このfellow達の殆どは現在アカデミックセンターの教授として臨床研究と人材育成に貢献している。たった2か月であったがここで受けたexposureは確実に私の人生も変えた。7年後再渡米し先述した臨床研究の修練を受けること、そして15年後に京大に臨床研究者養成者コース(www.mcrkyoto-u.jp)を開講することに繋がったのである。

貴財団にはぜひこの例にあるカーネギーメロン財団のように、「若手人材の人生を変える」きっかけを作るような事業にも今後大きく貢献していただき、さらなる発展を遂げられることを切に願うものである。

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